内容は多岐にわたり、具体的な対策も示したことから、9月にまとめた提言は300ページを超える長大文書となった。

最大のポイントは、偽情報の拡散を防止するため、事業者任せではなく、行政が関与を強めることを求めた点だ。行政が、有害な情報の削除などを事業者に求める制度の導入を提案したのである。

具体的には①違法な偽情報の対応基準を策定し行政の要請に基づく削除の迅速化、②違法な偽情報を繰り返し発信する常習者のアカウント停止、③違法でなくても社会的影響の大きい偽情報は投稿者への広告報酬の支払い停止、④なりすまし詐欺の偽広告を防ぐため事前審査基準を策定――などを列挙した。

これまでの規制策に比べれば、一歩も二歩も踏み込んだ内容である。

ただ、EUのように、違反した事業者に過酷な罰則を設けるよう求めなかった点には物足りなさが残る。

経済安全保障の観点を強調

一方、自民党の情報通信戦略調査会(会長・野田聖子元総務相)も8月末、「偽情報対策は健全な民主主義を守るための喫緊の課題」と位置づけ、偽情報への厳格な対応が急務とする政府への提言をまとめた。

まず、偽情報は「国民の意思決定に影響を及ぼすことで国民の表現の自由の基盤を根底から覆し、民主主義の根幹を揺るがしかねない」と強調。諸外国では、サイバー攻撃はじめ「敵対的情報戦」にも悪用されていると指摘した。

そのうえで、「表現の自由の基盤を確保して健全な民主主義を守る観点」に加えて「経済安全保障や情報安全保障の観点」から、強力な偽情報対策の必要性を訴えた。

具体的な対応としては、①偽情報の発信者に対し既存法令による厳格な執行、②外国からの偽情報によって世論操作がなされたと疑われる事例の検証、③投稿者の発信国を表示させる仕組みの検討――などを挙げた。

また、5月に成立した、個人の誹謗中傷について迅速に削除することを事業者に義務づけた「情報流通プラットフォーム対処法」の効果を踏まえ、偽情報についても事業者に同様の措置を講じるよう求めた。

表現は抑制的だが、内容はかなり踏み込んだものとなっている。

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難題は表現の自由との兼ね合い

政府・自民党が、偽情報の悪影響の重大性に気づき、新たな制度を整備して規制強化へ踏み出したことは評価されるべきだろう。

さて、ここで、またも問題となったのが、表現の自由との兼ね合いだ。

ネットの言論空間で、政府が情報のハンドリングに主導的に関わると、事実上の「検閲」になりかねないとの懸念がつきまとう。

「検討会」の提言は、違法でない情報にまで行政が口を出して「検閲」になりかねない事態を招かないよう、クギを刺すことも忘れなかった。表現の自由を確保するために、行政の恣意的介入を許さないのは当然であり、言論空間を萎縮させる規制であってはならないことは、論を待たない。

このため、ファクトチェックの重要性を説き、「推進主体は政府からの独立性が確保されるべき」との考えを示した。