中国が「沖縄独立論」を煽る深い理由

――最近では、沖縄(琉球)独立を煽るフェイクニュースがネット上に大量に投下されましたが、中国の関与が指摘されています。こうした動きも、歴史と関わりがあるんでしょうか?

中国の沖縄工作の活発化は、直接的には昨年6月の習近平の発言がゴーサインになっているのですが、深層心理としては歴史への認識もあると思います。

ご存知の通り、近代以前の沖縄は琉球王国として中華王朝から冊封(形式上の君臣関係)を受けて朝貢(皇帝に貢物を献上し、返礼品を受け取る外交・貿易関係)する関係にありました。江戸時代以降は清朝と江戸幕府への両属関係です。近年の中国の沖縄介入には、習近平体制に入ってからの中国外交に漂う「王朝時代の朝貢関係の結び直し」という思想も無縁ではないでしょう。

明に向かう琉球王国の進貢船(画像=沖縄県立博物館・美術館/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

中国の外交姿勢からこうした思想を感じ取れるのは、有名な「一帯一路」政策です。これは内陸ユーラシアの「陸のシルクロード」とインド洋沿海諸国を中心とした「海のシルクロード」の各国との関係を強化する習近平政権の外交戦略です。近年は中国の景気低迷もあり、すこし低調ですが、とはいえ言葉としては提唱され続けています。

「一帯一路」政策の背景にある“古代王朝”

23年5月に広島でG7サミットが行われた時、中国では“裏番組”のような形で、習近平をホスト役とする「中国・中央アジアサミット(中国中亜峰会)」が開かれていました。カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの中央アジア5カ国が陝西省の西安、つまり唐の時代の長安に招待され、唐代の宮殿を模した建物で唐代風の儀礼で歓待されたのです。

このときに呼ばれた各国の大部分は、唐の最盛期には西域さいいきと呼ばれ、現在の国土のすくなくとも一部が唐の勢力範囲内に入っていた歴史があります。当時の唐の皇帝は、中央ユーラシアの国々から「天可汗てんかかん」の称号で呼ばれ、西域諸国の朝貢を受ける立場でした。現在の「陸のシルクロード」からは、当時の紐帯関係の復活を望むような意思を感じ取ることができます。

一帯一路政策の「海のシルクロード」も同様で、これらの対象諸国は、明代に南海遠征をおこなって各国の朝貢を勧誘した鄭和の航路とかなり一致する。習近平はインド洋各国との外交の現場で鄭和の事績にしばしば言及しており、こちらも往年の朝貢国の結び直しの意思を感じます。