形を変えていまも残る「朝貢関係」

――現代においても、「朝貢」という意識がどこかにあるのでしょうか?

もちろん、中国も「主権国家間の平等」という近代の国際関係の基本は知っているのですが、それをどこかで相対化しているというか、「西側が作ったただのタテマエでしょ」と冷ややかに見ているところがあると感じます。

安田峰俊さん
撮影=プレジデントオンライン編集部

中国は経済がかげった現在でも、アフリカ諸国にお金をばらまいて強力に経済援助を推し進めています。あれも中国の国際貢献ということになってはいますが、現代における形を変えた「朝貢関係」と見ることもできると思います。

中華帝国は朝貢関係を持った国に対して、基本的に内政干渉はしないし自治も認めますが、一方で中国の徳を慕って尊敬することを求める。そうすれば、採算度外視で恩恵を与えるという関係です。

そもそも主権国家間の平等という発想が薄く、強い中国を認めて尊重すれば世界は平和であるというのが伝統的な中華帝国の国際関係観なのですが、問題は現代中国の世界とのかかわりかたにその発想が復活したように見えることです。

「対等な外交関係」をまったく経験してこなかった

近代に入り、日清戦争をはじめとした対外戦争の敗北のなかで朝貢システムは段階的に破綻していきます。中国の版図は欧米列強に蚕食され、最後は日本の侵略を受けました。

中国の悲劇は、近代に入っても対等な国家間関係のモデルを習得できなかったことです。朝貢関係のように相手の上に立つか、あるいは自分たちが劣位になって列強から搾取されるか。冷戦期を経てから、西側諸国の外資を受け入れた改革開放政策も、胡錦濤時代ごろまでは、まだ貧しかった中国が劣位に立つことで成立していた面があると思えます。

結果、自国が強くなった習近平時代になると、中国はどうやって他国と国際関係を結んでいいかわからなくなった。そこで出た答えが、「自分たちは強いんだから、他国は尊重して然るべきだ」「それこそ世界を平和に保つ国際関係だ」という、朝貢体制期の世界観の復活なのではないかと思えます。

もちろん、欧米や日本は「主権国家間の平等」という近代の国際関係が頭にありますから、こういう中国の思考が理解できない。いっぽうで中国も過去の王朝ほど鷹揚おうようではないので、ヒステリックに西側諸国を非難し、関係をより悪化させる。負のスパイラルですよね。