そうはいっても、日本の完成車メーカーは、EVシフトに対して慎重な対応に終始した。むしろハイブリッド車(HV)の可能性も追求し続けたため、足元のEV不況の下でも、日本の完成車メーカーは堅調な業績を記録し続けている。対照的に、ドイツのフォルクスワーゲンのリストラが物語るように、EUの完成車メーカーの不振は深刻だ。

完成車メーカーばかりではなく、スウェーデンのノースボルトのように、EV関連メーカーもリストラを迫られている。仮に日本の自動車メーカーがEVシフトに傾斜していたら、EUの自動車メーカーと同様のリストラを余儀なくされていただろう。結果として、EVシフトに慎重に対応したことは、日本の自動車メーカーにとって有利に働いた。

「急がば回れ」漸進的な対応こそが得策

EUDRに関しても同様だ。発効の延期によって、EUDR対策を進めてきた事業者は多額のコストを負担する必要に迫られている。今後EUDR自体が大幅に見直されれば、対策に伴う出費は完全なサンクコスト(埋没費用)となる。サンクコストの発生を極小化するためには、その規制の変更の可能性をにらみつつ、漸進的な対応を試みるほかない。

EUは高い目標を定めたうえで、その目標を実現するために、急進的な対応を域内の事業者に要求する。思惑が必ずしも一致しない27もの加盟国を抱えているため、そうした「錦の御旗」を立てなければ、全体を誘導できないためだ。そのうえで、理想に現実が追い付きそうがない場合は、目標を下方に修正するというアプローチを取るのである。

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同時にEUは、ブリュッセル効果の発動を狙い、EU域外の事業者にも急進的な対応を要求する。しかしながら、目標が現実に追い付きそうがない場合は目標が下方に修正されるから、先行して対応を進めた事業者には、一定のサンクコストが生じることになる。これではEU域外の事業者がEUの要求に対して身構えてしまうのも当然だろう。

EUDRに関しても、先行き、下方に修正される可能性がある。また発効されたとしても、将来的に撤回される可能性もある。EUDRのみならず、EUが発効を目指すあらゆる規制に関して、そのプロトタイプが下方に修正される展開を想定しつつ、日本の事業者は対応に臨んでいく必要があるといえよう。急がば回れ、のことわざ通りである。

(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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