借りがあるが、戦争を拡大させるリスクも

そもそもネタニヤフ氏が望むのはトランプ氏の当選です。トランプ氏の共和党はイスラエルの強硬姿勢を強く支持しており、トランプ政権からはさらなる軍事的、経済的支援が期待できます。その関係性もあって、ネタニヤフ氏がトランプ氏の言うことを聞く、という見立てになります。

かつてトランプ氏は大統領時代、イスラエルの求めに応じてアメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転させるなど、ネタニヤフ氏には“借り”があります。もしネタニヤフ氏がトランプ氏の求めに応じて停戦を実現すれば、ネタニヤフ氏はトランプ氏にこの借りを返すことにもなるでしょう。

しかし、逆のパターンも十分にあり得ます。トランプ氏は同時に、イスラエルによるイランの核施設への攻撃を支持するような言動も見せており、身内の共和党と共に、イスラエルの全面戦争を支持する可能性も出てくるからです。長期的にはこちらのリスクの方が高いでしょう。トランプ氏の行動が予測不能ということもあり、全体として、停戦の可能性は一時的に高まりますが、逆に戦争の拡大リスクも出てくるという矛盾に満ちた未来が来るかもしれません。

逆にハリス氏が大統領になった場合はどうか。身内の民主党内でイスラエルへの支持が割れていて、ハリス政権の誕生はイスラエルにとってはマイナスです。ネタニヤフ氏は親パレスチナ勢力を党内に抱えるハリス氏の言うことは聞きたくありません。また外交経験に乏しいハリス氏がネタニヤフ氏を説得して止めることができる可能性も低いと言えます。

大統領よりもアメリカ政治を熟知している

この場合は、ハリス新大統領がどれだけ“強い”大統領になれるかにかかってくるでしょう。仮に議会の上下両院の多数を制する=「トリプルブルー」となれば“強い”大統領となり、イスラエルに対して強い態度に出る可能性はあります。

豊島晋作『日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける』(KADOKAWA)

しかしトリプルブルーの政治的なハードルは極めて高く、現時点ではほぼ不可能と見られています。全体としては、ハリス新大統領が誕生した場合、これまでのバイデン政権で見てきたようなネタニヤフ首相とのギクシャクした駆け引きが続くことになるでしょう。

そもそもネタニヤフ首相は、もはやアメリカ大統領よりもワシントン政治のことを熟知していると言われます。通算17年という、イスラエル建国史上最長の在任期間を誇るネタニヤフ首相は、これまでクリントン、ブッシュ、オバマ、トランプ、バイデンという5人の大統領と渡り合ってきた経験があります。そうした政治・外交経験はトランプ氏もハリス氏をも上回ります。

今年7月にアメリカ連邦議会で演説した際には、52回ものスタンディング・オベーションを浴びています。ちなみに日本の岸田前首相の演説のときは15回程度でした。そんなネタニヤフ首相と渡り合うのは、世界最高の権力者とも言えるアメリカ大統領ですら、簡単ではないのです。

関連記事
【第3回】「殺られる前に殺れ」と教典が説いている…世界中から非難されても虐殺を続けるイスラエルの国家観
本当は「コロンビア大院卒の超高学歴」なのに…小泉進次郎氏が「これだから低学歴は」とバカにされる根本原因
なぜ自民党と新聞は「愛子天皇」をタブー視するのか…「国民の声」がスルーされ続ける本当の理由
ポスト岸田「1位石破茂、2位上川陽子、3位小泉進次郎」は大ウソ…自民党支持者だけに聞く「次の首相」ランキング
「リニアのラスボス」は川勝知事ではなかった…JR、沿線各県がいま頭を抱える「リニア開通」を阻む"最大の敵"