岸田政権が残した3つの「置き土産」
以前、本連載でも指摘したが、「物価上昇を上回る賃上げ」も、「防衛増税」も「原発政策」も、岸田政権の置き土産が残されたままだ。岸田前首相は就任以来「物価上昇を上回る賃上げ」を掲げ続け、物価上昇は容認する一方で、賃上げを誘導すれば、それがデフレからの脱却につながるという姿勢を取り続けてきた。
名目賃金は上昇してきたものの、物価上昇がそれを上回り、「実質賃金」は今年2024年5月まで26カ月連続のマイナスだった。2年以上、生活が苦しくなる状況が続いていたと言える。
それが、ようやくプラスに転じたのが6月。大企業を中心に春闘での大幅な賃上げが実現、それに伴ってボーナスが増えた。6月、7月とボーナス効果で実質賃金はプラスになったが、8月に入ると再びマイナスに転じている。秋になってさまざまな商品の価格が引き上げられているほか、郵便料金の大幅な値上げもあった。再び円安が進めば輸入物価が上昇し、タイムラグを置いて消費者物価に跳ね返ってくる。物価上昇を上回る賃上げは簡単ではない。
賃上げをどうやって実現させるのか
それでも所信表明演説で「物価に負けない賃上げ」を訴えた。「日本の経済を守り、国民生活を守り抜きます」とし、こう述べた。
「生鮮食品、エネルギーなどの物価高に国民の皆様は直面しておられます。物価上昇を上回る賃金上昇を定着させ、国民の皆様に生活が確かに豊かになったとの思いを持っていただかなければなりません」
では、それを実現させる手はどうするのか。所信表明では「一人一人の生産性を上げ、付加価値を上げ、所得を上げ、物価上昇を上回る賃金の増加を実現してまいります」とした。役所の書いた模範回答で、岸田内閣が言っていたものと変わらない。
物価上昇対策についても具体策の明言は避けた。円安になれば、輸入に依存するエネルギーの円建て価格は上がり、ガソリン代、電気代、ガス代は上昇する。ガソリン価格や電気・ガス料金の上昇を抑えるために、岸田内閣は元売り会社などに補助金を出してきたが、すでに予算の累計額は11兆円超にのぼっている。