「元・お茶畑」の耕作放棄地が強酸性地だった理由

特に静岡のこのエリアは、茶の栽培が非常に盛んだったことから、栗栽培に転用しようと耕作放棄地を探すと、その多くが元・お茶畑ということになる。そうした土地の土壌を調べてみると、pH3〜3.5という強酸性であることがわかった。もちろんそんな土地では、まともに栗は育たない。

「仮にその土地のpHを3から5に変えて栗栽培を始めようと思うのならば、土壌改良だけで1ヘクタールあたり100万〜150万円かかります。じゃあ、その初期投資は誰がどう負担するのかなど、課題は山積です」

それ以外にも剪定方法や草刈り、農薬のタイミングといった18年の経験で培った松尾氏の知見を、余すことなく使って支援を行っていくという。強酸性の土地になっている原因も突きとめた。

「調べてみたら、30〜40年前にうまみ成分を追求するあまりに、窒素成分のための化学肥料を大量に入れていたみたいで、その結果、土に残った硫酸や硝酸がカルシウムやマグネシウムなどのアルカリ性の物質を剥がしていき、酸性化が進んだようなのです。これは静岡県全体の問題だということもわかってきました」

画像提供=松尾和広氏
新天地・静岡県にて栗栽培についてレクチャーする様子

日本中で栗栽培や栗農家の後継者問題が出てきている

さらに気づいたこともある。静岡だけでなく、日本中で栗栽培や栗農家の後継者問題が出てきていることだ。その背景や要因は様々だが、ひとつには1キロあたりの生栗の買取価格の問題があるのだと松尾氏は指摘する。

「僕の見立てでは、生栗の買取価格が1キロ1000円を超えているようなところはありません。これがなぜ問題なのかというと、高品質な栗をつくろうと思うと、栽培経費として1キロあたり1000〜1500円がかかるからです。

栗農家の平均反収が100キロを切っているというデータもあります。つまり、仮に1キロ1500円で買い取ったとしても、1ヘクタールで150万円。そこから先ほど言った栽培経費がかかってくる。これでは、どう考えても商売としてつづかないでしょう」

松尾氏が営んできた能登の栗農園は、土地条件が良くなかったため反収200キロだった。しかし、好条件が揃えば300〜400キロも見込めるという。

商売として成り立たせるのならば、まずはそこを目指しつつ、50年後も平均反収を200キロ以上にすることを見据えて、環境を整えることが必要だと松尾氏は考えている。