中絶手術などを主な診療内容にしている医師の一部が今、女性器形成施術を新規に始めるケースが増えているという。ジャーナリストの此花わかさんは「経口中絶薬の薬事認可をきっかけに一部で増え始めているようだ。医師が女性器形成施術を始めるのは、医療施設とスタッフの雇用を維持する目的もあるが、女性器形成をめぐってはさまざまな問題がある」という――。
超音波写真の上に置かれた錠剤2錠
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中絶に収入依存の一部医師が女性器の美容整形へ

日本で経口中絶薬「メフィーゴパック」がついに認可されたのは、2023年4月のこと。これは女性にとって中絶方法の選択肢が広がる意味で画期的だったが、医師にも大きな影響を与えている。

手術や検査など中絶に関わる診療が自身のクリニックの売上や収入の軸だった医師の一部が、仕事内容をシフトする動きが見られているという。

都内で産婦人科クリニックを経営するある医師はこう語る。

「中絶手術に収入を頼ってきた医師の一部が女性器形成へ流れています。特にクリニックを経営している医師数人から、中絶薬認可をきっかけに、医療施設とスタッフの雇用を維持するために女性器形成施術を新規に始める準備をしている・始めたと聞きました」

その背景を調べると、日本社会に潜む4つの問題が浮かび上がってきた。

第一の問題:経口中絶薬の利点が発揮できる運用がされていない

第一に、日本では経口中絶薬の利点を発揮できる運用ができていない。そもそも経口中絶薬の導入は中国やフランスよりも35年遅れて認可された。経口中絶薬は、多くの先進国で1980年代以降に順次承認されてきた。最も早い承認国は中国とフランスで1988年。イギリスでは1991年、アメリカでは2000年に承認された。

経口中絶薬は現在96カ国以上で安全だと薬事承認されており、WHOの必須医薬品リストに入っている。しかも、医師の面前での服用や入院を条件としておらず、患者は自宅で服用できるとされている。女性にとって経口中絶薬の大きな利点は自宅で服用できることだが、日本では指定医の面前での服用と入院が必須で、最終的には中絶手術と同じぐらいの費用がかかる。日本の経口中絶薬の運用は、他国と大きく異なるのだ。

ただし、国内で日本型運用が続けば、経口中絶薬は他の国ほど普及しないだろう。それならば中絶手術に収入を依存していた産婦人科医は美容整形まで診療を広げなくてもよいのではないか。

その点について前出の産婦人科医に聞くと、「将来的に中絶薬が安価になる可能性があり、中絶件数は毎年減っている。だから、女性器形成へ走る医師がいるのではないか」という。実は、日本の中絶件数は2018年以降毎年減少している。2022年の人工妊娠中絶件数は12万件ほどで前年比2.7%減少した。加えて人口減少や性教育の向上を踏まえると、中絶の需要が減っていくと考えられるだろう。