販売チャネルを「直販サイト」と「ふるさと納税」に絞り利益率を改善

翌2021年は手数料が利益率に影響してくることを考慮し、販売チャネルは直販サイトとふるさと納税だけに絞った。これによって利益率を2割ほど改善させることにも成功したという。基本的に10月から12月の3カ月間が販売集中期間で、2020年から2023年はこの期間で売り切ったという。

「うちは『カラーミーショップ』というシステムを使っていて、秋が近づいてくる8月になると事前予約を開始して、メール会員になってくれているみなさんにダイレクトメールを送るんです。そうすると、事前予約の開始から2週間で収穫量の半分は売れる見込みが立ち、残りはテレビなどを見た新規のお客さんが買ってくれるという形です」

9月の収穫と焼き栗を始めるタイミングで、「年に1、2回はテレビの取材があったことがありがたかった」と松尾氏は謙遜するが、同氏が開発した冷蔵熟成と焼き栗の技術による商品力や積み重ねてきたホームページでの情熱のこもった情報発信がテレビマンの琴線に触れたことは間違いないだろう。

テレビカメラで撮影中の現場
写真=iStock.com/mbbirdy
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50年後も反収200キロを超えるような栽培環境をつくるために

「その技術とスキル、経験でわれわれを助けてほしい。ぜひ静岡に来てください!」

こうした実績がテレビのみならず、「遠州・和栗プロジェクト」の担当者の心をも動かしたのである。松尾氏に与えられた役割は、かつて盛んだった同エリアの栗栽培が、生業として成り立つよう、あらゆる側面から支援することだ。

松尾氏は、10年や20年という視点ではなく、50年後までを視野に入れた生業にしなければいけないという使命感をもって取り組んでいる。

「収穫量でいえば、反収(約10アール当たりの収穫量)が50年後も200キロを超えるような環境をいかにつくるか。そのためには、しっかりと営農計画を立てる必要がある。仮に50ヘクタールで栗栽培をやろうと思ったら、5年おきに10ヘクタールずつ植樹していくというやり方もありますけど、それより毎年3ヘクタールずつ植樹をするほうがいい。

土壌でいえば、僕は『化学性、物理性、生物性の3要素』と言っているのですが、栗の栽培に適した状態になっているのかを分析して、改善していくことから始めなければなりません」