「~のほう」を使うのが適切な場面もある

例えば、次の使い方は適切です。

●右のほうへお進みください(道案内で方角を示す場面)
●私のほうからご連絡いたします(電話をかけた相手に自分からかけ直す場面)
●平田さんのほうを推薦します(複数の中から1名を推薦するよう言われて)
●医療関係のほうに勤めています(仕事は何かと聞かれて)
●お体のほうはいかがですか(退院した人へのごきげん伺いをするとき)

実際に方角を示したり、複数の中から選んだりするほか、仕事や病気のことなどではっきり聞きにくかったりする場面で「……のほう」を使うのは適切です。

対して前半で挙げた例文の「……のほう」は過剰です。「会議室へご案内します」「お荷物をお持ちしましょうか」「連絡を取ってみます」「課長に申し伝えます」「ミルクティをお持ちしました」のほうが適切。ないほうが、よほど「ほうほう」と感心されるのではないでしょうか。

複数の業界で多用されている「ファミコン用語」

「こちらが焼き魚定食になります」

斜め上からこう聞こえて「生魚がくるんかい?」と思ったのも束の間、テーブルに置かれたのはすでにグリルで焼かれた魚。安堵しました。

「こちらが本日の内見資料になります」(不動産会社で)
「今私が立っている場所が○○の入り口になります」(報道で)

一時期「ファミコン(ファミリーレストラン・コンビニ)用語」と話題になった「……になります」は、あっさりと業界の枠を超え、不動産業界や放送業界などにまで勢力を広げています。

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とはいえ、「……になります」という用法の全てが間違いとは限りません。正しいケースもあれば、そうでないケースもあるのです。なぜなら、「なる(成る・為る)」は、「多義語」だからです。「変化して別の事物に至る」という意味以外にも多くの意味があります。

一部を挙げると左のような使い方は間違いではありません。(カッコ内は意味)

●雪が溶けると水になります(変化して別の事物に至る)
●脱税は犯罪になります(順当に考えると、それに相当する)
●お会計は880円になります(ある数量に達する)
●ここからの眺めは実に絵になります(ふさわしい価値が成立する)

例外もあります。ある時、テーブルに運ばれた生のハンバーグを自分で焼く店に行きました。「変化して美味しいハンバーグに至る」「順当に考えると確かにそれがハンバーグに相当する」、両方の意味で「こちらがハンバーグになります」が奇しくも当てはまるケースを体験したのです。

対して、冒頭の三つは「……になります」を使う必然性がありません。傍線部の「になります」は「です(でございます)」のほうが自然です。誤用例があると聞くと一様に間違いだと決めつけがちです。意味や場面に合っているかどうかをその都度、判断するようにしたいですね。