3月22日(金)発売の「プレジデント」(2024年4月12日号)の特集「伝わる文章、バカの文章」より、記事の一部をお届けします――。

大谷翔平選手も使った「させていただく」

敬語は難しいと、多くの人が感じるのはなぜでしょうか。

敬語は、距離感を置くことによって相手への配慮や敬意を伝える言語的な「道具」です。適切な敬語とは、不動の正解といえるような型があるわけではありません。相手と自分の関係性(上下関係や親疎しんそ関係)や状況に応じて、ふさわしい敬語を柔軟に選ぶ必要があります。敬語には従来の尊敬語、謙譲語、丁寧語に、丁重語、美化語が加わり合計5種類あり、改まり方の度合い(丁寧度のレベル)も多様です。しかも相手、状況、トピックによってふさわしい敬語の種類を、その場その場でチョイスして使わなければなりません。難しいと感じるのも当然です。

そんななか、近年、爆発的に使用されているのが「させていただく」という敬語です。みなさんも毎日、さまざまな場で、この言葉を目にしたり耳にしたりしていることでしょう。会議やイベントが始まる際、司会者の「それでは始めさせていただきます」はお決まりのフレーズです。返答に困った政治家は「コメントは控えさせていただきます」、アイドルグループが解散するときも「解散させていただきます」という具合に多用されています。記憶に新しいところでは、米メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手が、SNSで結婚の報告をした際にも、「結婚いたしました事をご報告させていただきます」とありました。

見聞きするだけでなく、自分でもよく使っているのではないでしょうか。今やこの言葉は社会全体に氾濫しています。

結婚の記者会見のイメージ
写真=iStock.com/itakayuki
※写真はイメージです

私はここ数年、アンケート調査や過去・現在のデータを分析して「させていただく」を研究していますが、この言葉は言語学者にとって謎に満ちた言葉なのです。というのも、これだけ多用されているにもかかわらず、一方では「させていただく」に違和感を覚える人も多い、不思議な言葉だからです。

PRESIDENT 2024年4.12号

3月22日(金)発売「プレジデント」(2024年4月12日号)の特集「伝わる文章、バカの文章」では、本稿のほか、「バカにされない知的文章術」をテーマにした文章の書き方に関するノウハウを満載しています。