「お」には謙譲語としての側面もある

聞き手から「いやです。勘弁してください」と言われるような事態は全く想定していないのでしょうね。この用法はこれからも、広まり続けていくのかもしれません。

「危ないので、白線よりこちら側まで下がっていただいてもよろしいですか」「この先行き止まりです。引き返していただいてもよろしいですか」

へりくだりすぎなので「×はっきり言っていただいてもよろしいですか」。

自分の書いた手紙に「お」を付けるのは失礼か?

「お手紙をさしあげます」というのは間違っていませんか。自分の書いた手紙に「お」を付けてもいいのですか。相手に失礼になりませんか――こんな質問をよく見かけます。結論から言うと、間違っていません。「敬語の指針」(文化庁)にもこうあります。

「先生へのお手紙」「先生への御説明」のように、名詞についても、〈向かう先〉を立てる謙譲語Iがある。(注)ただし、「先生からのお手紙」「先生からの御説明」の場合は、〈行為者〉を立てる尊敬語である。このように、同じ形で、尊敬語としても謙譲語Iとしても使われるものがある

つまり、「お手紙」では尊敬語と謙譲語両方の役割が成立するわけですね。自分の書いた手紙に「お」を付けては相手に失礼――こう考えるのは、へりくだりすぎです。

「お電話」「お手紙」は文脈によって意味が変わる

「お/ご」が付いていると何でも美化語だと考えがちですが、使う場面によって役割が変わります。「お手紙」同様、尊敬語・謙譲語両方に使える語としては、他にも「お祝い・お答え・おことわり・お知らせ・お電話・お土産・お礼・おわび・ご挨拶・ご案内・ご説明・ご招待・ご返事」などがあります。

例えば、取引先に対して使うとしたら、どんな場面があるでしょうか。例文を挙げます。

「お電話をいただき、ありがとうございます」(尊敬語)
「後ほどお電話をさしあげます」(謙譲語)
「新作発表会のご案内が届きました」(尊敬語)
「今後もご案内をお送りしてよろしいでしょうか」(謙譲語)

そんな話をしていたら、カバンの中の携帯がマナーモードで震えました。誰からだと思いますか? 私はこう答えます。「予約していたお店からの電話です」。電話をかけてきた〈行為者〉を立てない場合には、こんなふうに「電話」でOKです。

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