「CDを出せさせていただきます」は盛りすぎ

とはいえ、視聴者にとって耳に付く言い方であるのも確か。「今年はCDをさせていただき、歌合戦にもさせていただきました」

いくらファンに感謝しているからといって、やはり過剰な敬語です。また厳密に言えば「歌合戦にもさせて」は「歌合戦にもさせて」が適切です。CDを買うほどのファンは、どんな言い方でも快く受け入れてくれるのかもしれません。ただ、ファンならなおさら、憧れているアーティストやタレントには、堂々とかっこよく振る舞っていてほしい気持ちもありはしないでしょうか。

そこで、「『させていただく』盛りすぎ防止対策」を施した表現を提案します。

「今年はファンの皆さんのおかげでCDを出すことができました。歌合戦にも出場の夢がかないました」

これならファンへの感謝も盛り込めます。「出すことができた」「夢がかなった」というポジティブな言葉で、応援してよかったと喜んでもらうことができます。ファン自身も夢を叶えようと思うかもしれません。

「おかげ(さま)で……しました(いたしました/できました)」を使うことで、感謝を述べつつも媚びない印象になります。「させていただきます」の二度使いで敬意を盛るよりも、かえって距離が縮まるのではないでしょうか。

「名前を頂戴する」はよく考えると変な表現

「お名前様を頂戴できますか」

名前の聞き方にこんな誤用があると知ってはいましたが、実際に聞くと、やはり「まさか」と思うものです。指摘するのも大人気ないかと「えーっと。名前を書けばいいですね」と素直に名前を書きました。

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もしも、ここで「お名前様、って誰ですか」とでも聞いたとしたら、「あっ、『様』がいけなかったですよね。では、お名前を頂戴できますか」と返ってきたかもしれません。ダメです、嫌です、「お名前」もさしあげられません。

第一「前田」って、どこにでもあるような名前ですよ。ペンネームでも芸名でも自由に名乗ればいいじゃありませんか。ん? 名前? はい。前田ですけれど。「承知しました。もう頂戴しましたので、大丈夫です」。あれっ、いつさしあげましたか……少々長い前置きになってしまいました。「様」が盛りすぎというだけでは済まず、長大な妄想までついてきたようです。

混乱したら、元の言葉に戻すのが基本。「お名前様を頂戴できますか/お名前を頂戴できますか」を敬語なしで言うとすれば「名前をもらえるか」です。名前はあげられませんよね。襲名したかったり、名付け親になってほしかったり、相手の名前を我が子に付けたかったり……そんな特殊な状況なら分かります。

そうではなく、何かを買ったときや宿泊するときに「名前をもらえるか」は不適切です。