研究論文の「評価」は玉石混交

同社は、線虫がん検査について著名な大学病院などと共同研究を行い、多くの研究論文をウェブサイトで紹介している。これを見た一般の人は、「信頼性の高いがん検査」だと思うのは当然だろう。

今年7月、同社は39本目となる研究論文を公表した。

国立病院機構・四国がんセンターのがん患者1664人から尿検体を採取して行った研究で、「がんの検出感度は全体として60~90%」。「従来の15種類のがんに加え、歯肉がん、舌がん、耳下腺がん、甲状腺がんなど、新たに12種類のがんにも線虫が反応すると判明した」という内容である。

この研究論文について、臨床研究に詳しい日本医科大学武蔵小杉病院・腫瘍内科の勝俣範之教授は、次のように指摘する。

「本来、線虫がん検査を受けるのは、がんに罹患しているか分からない一般の人ですが、この研究では、がんと診断された患者の検体(尿)を使っています。それで60~90%という感度は、非常に悪いと言えるでしょう。

また、この論文が掲載された医学誌のインパクトファクター(※注)は、『2.3』と極めて低い。医学界では研究論文として評価されないランクです」

撮影=福寺美樹
日本医科大学武蔵小杉病院・腫瘍内科の勝俣範之教授

※インパクトファクター:掲載された論文の引用頻度によって、医学誌の影響力や重要性を示す指標のこと。一般的に評価されるのは、インパクトファクターが5前後以上の医学誌に掲載された研究論文と言われている

乱立する「がんリスク検査」は未承認だった

現在、国内で線虫がん検査と同様の「がんリスク検査」を行なっているのは、確認できるだけで12社ある。

「血液中のアミノ酸濃度バランスから、さまざまな疾病リスクを1回の採血で評価(アミノインデックス)」
「血中に漏れ出したがん細胞そのものを捕捉し、全身のがんのリスクを明示できる(マイクロCTC検査)」
「がんで異常値を示す唾液中の代謝物を測定して(中略)AIで評価。がんの種類ごとにそれぞれのリスクを調べる(サリバチェッカー)」

それぞれが独自理論に基づいた、さまざまな検査システムを展開しており、1回の検査費用は、1万円台から約20万円まで幅広い。

通常の検査薬は、PMDA(医薬品医療機器総合機構)の厳正な審査と承認が必要になる。しかし、「がんリスク検査」は、新しい概念のために、薬機法(※)の枠組みに該当しないとされている。PMDAの承認審査を受けていないということは、「がんリスク検査」の精度や信頼性は“自己申告のスペック”でしかない。

※薬機法:「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」