12日の総裁選告示前には、石破氏とともに「2強」と目された小泉元環境相は、候補者同士の論戦が始まると、経験不足、政策への理解不足を露呈して失速し、党員・党友票が集まらずに第1回投票で3位に終わった。代わって台頭したのが保守右派の高市氏だ。自ら党員を獲得し、地方講演を重ねて党員票を積み上げ、安倍路線を継承するとして議員票も伸ばし、第1回投票では1位に躍り出た。

決選投票では、旧派閥の論理・行動も復活する。菅前首相が率いる無派閥・菅グループと、岸田首相ら旧岸田派がまとまって石破氏支持に回ったのに対し、麻生副総裁は高市氏支援に舵を切りながら、麻生派がそろってその指示に従ったわけではなかった。岸田氏にとって、菅氏は「岸田降ろし」の先頭に立ったことで遺恨の対象だったが、「高市首相」を阻止する点で手を握ったのである。

キングメーカー争いは、麻生氏が後退し、岸田氏が菅氏とともに新たにキングメーカーの座に就いた。これまでの「麻生・岸田連合」から「菅・岸田連合」への疑似政権交代が起きたと言ってもいいだろう。

写真=時事通信フォト
衆院本会議で石破茂首相の所信表明演説を聞く自民党の麻生太郎最高顧問(左)。中央は菅義偉副総裁、右は岸田文雄前首相=2024年10月4日午後、国会内

「嫌い」か「より嫌い」かの選択

今回の総裁選での第1回投票は、国会議員票368票と同数の党員・党友票の計736票で争われ、高市氏が181票(議員72票、党員109票)を集めてトップで上位2人による決選投票に進み、石破氏が154票(議員46票、党員108票)で2位に食い込んだ。高市氏の党員票トップは驚きを持って迎えられた。

高市早苗氏(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

3位以下は小泉氏136票(議員75票、党員61票)、林官房長官65票(議員38票、党員27票)、小林鷹之前経済安全保障相60票(議員41票、党員19票)、茂木敏充幹事長47票(議員34票、党員13票)、上川陽子外相40票(議員23票、党員17票)、河野太郎デジタル相30票(議員22票、党員8票)、加藤元官房長官22票(議員16票、党員6票)だった。

決選投票は議員票に加え、各都道府県代表に47票が割り振られ、石破氏が215票(議員189票、地方26票)を得て、高市氏の194票(議員173票、地方21票)を上回った。議員仲間や党内人脈に乏しい2氏の争いは、政権担当能力の見極めや政策・理念への共感度が判断基準にはならない。好きか嫌いかでもなく、「嫌い」か「より嫌い」かの消極的選択だった。

日テレ党員調査②高市28%③小泉14%

総裁選の戦況に変化が表れたのが、9月22日に日本テレビが報じた党員・党友調査(20~21日)だった。石破氏31%、高市氏28%だったのに対し、小泉氏は14%と水をあけられた。前回調査(12日)に比べ、石破、高市両氏が6ポイント上昇したのに対し、小泉氏は5ポイント下落した。小泉氏は議員票でリードしても、党員票が伸び悩み、決選投票に残れない可能性が大きくなった。

小泉氏は、9月14日の日本記者クラブでの公開討論会で、その資質に疑問符が付いていた。上川氏から「来年カナダで行われるG7首脳会議で、どのような発信をするのか」と問われ、「カナダのトルドー首相は就任時は43歳だ。私は今43歳、そのトップ同士が胸襟を開き、新時代の扉を開けることができるG7サミットにして行きたい」と述べたのだ。発信する中身はどこに行ったのか。