日朝外交については「拉致問題の解決に向け、同世代同士のトップで、父親同士が会っているから、今までのアプローチに囚われない、新たな対話の機会を模索したい」と語るなど、ここでも金正恩朝鮮労働党総書記との同世代トークになってしまう。会場からは父親同士が会談したことがどういう意味があるのか、などと失笑を買っていた。

小泉進次郎氏
小泉進次郎氏(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

小泉氏が労働市場改革のための解雇規制見直しを生煮えのまま打ち上げたことも、結果としてマイナスに働いた。大企業に解雇回避努力と新たにリスキリング(学び直し)や再就職支援を義務付ければ、スタートアップ(新興企業)などに転職しやすくなる、と主張したのだ。

他の候補者からは「解雇規制の緩和は、働いている方々の思いや立場を踏まえて議論すべきだ」(加藤氏)、「不当解雇されても、(労働者が)補償を受けられない現実がある」(河野氏)などと慎重論が相次ぐ。小泉氏はその後の討論会などでも「解雇の自由化とは言っていない。新しい前向きな労働市場を作っていく」と釈明に追われた。

「進次郎はどういう結果でも先はある」

小泉氏は早い段階で党員の支持を失ったのだが、この苦境を予見した2人のうちの1人が小泉純一郎元首相だった。告示前日の11日夜、都内で猪口邦子参院議員(麻生派、小泉内閣少子化相)、加藤鮎子少子化相(旧谷垣グループ)と会食した際、「私も2回総裁選で負けた。3回目は圧勝したけれど。進次郎はどういう結果になっても先はある。負けても離れないでやってほしい」と語っていた。猪口氏らはこの時点ではピンと来なかったが、その後、父親の眼力と愛情に感服したという。

もう1人は、小泉進次郎氏出馬の後ろ盾となった菅氏である。9月8日に小泉氏の横浜市内での街頭演説に登場し、マイクを握ったが、周辺に「進次郎は2位になれないな」と呟く。気脈を通じる石破氏には「小泉支援は神奈川県連として当然だ」とし、決選投票での支持をそれとなく伝えていた。

菅氏に近い、小泉陣営の武田良太元総務相(旧二階派)も舞台回しに加わる。訪韓中の岸田首相を9月6日夜、ソウルのホテルに訪ね、総裁選に「常識的対応」を取ることで腹合わせしたのだ。武田氏は、岸田首相が麻生氏に不信感を抱いていることも嗅ぎ取った。この会談は、菅、岸田両氏が対立を乗り越えて決選投票で協調する布石になるのである。

武田氏は帰国後、石破氏に「すぐに対応を取った方がいい」と進言する。石破氏は、告示12日の党本部での所見発表演説会で、冒頭に「岸田首相の果たした功績、多大な努力に心から敬意を表し、今後もご指導賜りたい」と述べ、決選投票を見据えて、旧岸田派にメッセージを送った。岸田首相に敬意を表したのは、ほかには小林氏だけだった。

「規則には全く抵触していない」

告示直前に問題が発覚したのは、高市氏が全国の党員らに自身の政策を訴える文書を30万部程度郵送していたことだ。総裁選挙管理委員会が9月4日、多額の費用を要する文書の郵送などを禁じる通知を出しており、党内にルール違反スレスレの行動とともに、高市氏の豊富な資金力、情報収集力にも警戒感が走った。