「そこまで鬱憤が溜まっていたのか」

厳しい船出となった。石破茂政権が10月1日、発足した。前日9月30日に自民党総裁として衆院選を10月15日公示――27日投開票で実施する方針を表明したのは前代未聞である。自民党総裁選の論戦では、衆院解散について「予算委員会での論戦を経て」と主張したが、森山裕幹事長の進言を受け入れ、9日中の早期解散に方向転換した。石破首相が短命に終わるのか、長期政権を築くのかは、衆院選でどれほど負け幅を抑えるかにかかっている。

首班指名を受ける石破氏
首班指名を受ける石破茂氏(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

石破首相は、総裁選で党内基盤の脆弱さを露呈したが、今後も政局や政策決定の主導権を党側に握られる「党高政低」となるのだろう。党役員人事は、森山氏のほか、菅義偉副総裁、麻生太郎最高顧問、鈴木俊一総務会長(麻生派)、小野寺五典政調会長(旧岸田派)、小泉進次郎選挙対策委員長(無派閥)らという顔ぶれだ。

主要閣僚は、林芳正官房長官(再任、旧岸田派)、加藤勝信財務相(旧茂木派)、岩屋毅外相(無派閥)、中谷元防衛相(同)らという布陣となった。首相と同じ防衛族議員が目立つ。総裁選で自身の推薦人から6人も入閣させたが、それだけ党内人脈に乏しいということなのだろう。

長く「党内野党」という立場に置かれた石破首相は、安倍晋三元首相が率いた旧安倍派からは1人も入閣させず、党7役にも充てなかった。それどころか、村上誠一郎総務相(無派閥)の起用は、安倍氏が銃殺された直後に「国賊」呼ばわりしていただけに、旧安倍派の反発は強く、党内から「そこまで鬱憤が溜まっていたのか」(岸田文雄前首相)という驚きの声も上がった。

10月3日の読売新聞世論調査(1~2日)で、石破内閣の支持率は51%を記録した。内閣発足時の支持率としては、2021年10月の岸田内閣の56%を下回り、「ご祝儀相場」としてはやや限定的だった。自民党支持率は38%で、23年5月調査の水準を回復したが、党内には衆院選に向け、不安を残している。

5度目の総裁選出馬「最後の戦い」

自民党総裁選を振り返る(以下、肩書は当時)。高揚感には程遠い権力闘争の決着だった。岸田首相の後継を選ぶ総裁選は9月27日、決選投票の結果、石破元幹事長を新総裁に選出した。9人が出馬した異例の総裁選は、第1回投票で2位に着けた石破氏が、決選投票で国会議員票を大幅に伸ばし、高市早苗経済安全保障相に逆転勝ちした。石破氏は5度目の総裁選出馬で、今回を「最後の戦い」と位置付けていた。