「私の子供時代の思い出だったんです」と彼は言う。諦めきれず数日を掛けて探したが、実りはなかった。「それに関しては、とても苦痛を感じています」と無念の胸中を語る。
ガザ市から何度も避難を繰り返したスハ・アラムさんは、家にほとんど何も残されていないと嘆く。彼女は北部に残った友人に家の様子を確認してもらったが、壁の穴から侵入した略奪者によってすべてが盗まれていたと知らされた。
英エコノミスト誌によると、多くの避難民が南部に避難している間に北部の家が略奪され、テレビやキッチン用品、家具までもが盗まれているという。思い出の品々は盗品市場ですぐに売られてゆき、時に被害者が盗まれた自身の所有物を買い戻すこともあるという。
価格は10倍以上に高騰、生活必需品すら高級品になった
ガザの泥棒市場では、価格高騰が深刻な問題となっている。イスラエルの封鎖と戦争による物資不足が原因で、基本的な生活必需品の価格が急騰している。
米オンラインニュースメディアで中東問題に詳しいモンドワイスによると、砂糖の価格は戦前の3シェケルから25シェケル(約120円から960円)に、ディーゼル燃料は7シェケルから70~90シェケル(270円から2700~3500円)に跳ね上がった。記事は、「イスラエルの飢餓政策による極度の物資不足から生じた急速なハイパーインフレ」により生活環境が急速に悪化したと指摘する。
フランス日刊紙のル・モンドは、8人の子供と共に避難生活を送るハラ・エムランさんの生活苦を取り上げている。市場を訪れた彼女は、物価の高騰に驚いたという。
トマト1キロが、ユーロ換算で戦前の30セントから4ユーロ(約48円から640円)に、鶏肉が3ユーロから20ユーロ(約480円から3200円)に、砂糖3キロが2ユーロから20ユーロ(約320円から3200円)に跳ね上がっていた。息子のために手に入れたかったクッキーすら買えない状況だ。最も安いクッキーでも、1枚で2ユーロ(約320円)の値札がぶら下がっている。
「子供たちは、肉が恋しいと言っています」
物価高だけでなく、生活環境の悪化が市民たちを苦しめる。朝食の準備さえも困難な状況だ。モンドワイスは48歳女性のアムナ・カドゥームさん一家を取り上げている。
彼女は、毎朝早く起きて家族のために朝食を準備する。前日に切った緑の木を燃やして調理を試みるが、野外での調理とあって、煙が目にしみる。夫と子供たちがテントの中でまだ寝ている早朝、彼女は火に興味を持って近づいてくる小さな子供を気遣う。
通常は家庭のキッチンで行われるべきこの日常的な行為が、今では路上で行われている。そのこと自体、ガザの異常な現実を物語っている。カドゥームさんの夫はタクシー運転手として働いていたが、頼みの綱であったタクシー車両が戦争のごく初期に爆撃され、一家は生計を立てる手段を失った。