鷹と分かり合える瞬間がある

それぞれの鷹には、仕事の現場で打てば響くような反応をする「ベスト体重」があるという。もし、現場でいつもよりも周りを気にしたり、ダラダラ飛んでいるなと感じたら、現場で与える餌の量を調整して、一度体重を落とす。仕事中、なにがあっても鷹匠のもとに戻ってくるように、餌への集中力を高めるのだ。

江頭さんは、そのために毎日3羽の体重を測って餌の量を決めている。これは、鷹に慣れていない人にはできない作業だ。なにかあれば師匠や上司を頼ることもできた関西時代と違い、江頭さんには今、鷹の世話を任せられる人がいない。

「1日なにもしない日はありません。休日も餌をあげないといけないから、どこか遊びに行くにしても、日帰り、もしくは翌日の午前中までには帰ってきます」

常に鷹のことが頭のなかにある毎日。一般人には想像もつかないが、鷹匠を始めて2年目に蓮ちゃんを引き取ってから、この生活を8年以上続けている江頭さんにとっては日常であり、仕事にもやりがいを感じているという。

「関東エリアマネージャーとしては、私が上京後に担当したクライアントから続けてご依頼をいただくと、自分の腕が通用しているんだという手ごたえがあります。鷹匠としては、この子たち(3羽の鷹)に教えたことがそのまま返ってくるのですごく面白いですし、追い払いをして効果が出ると楽しいです」

撮影=弓橋紗耶
神奈川県内の大学から依頼を受け、カラスを追い払う江頭さん

「鷹とわかり合えていると感じる瞬間はありますか?」と尋ねると、「はい」と頷いた。

「闇雲に鷹を適当に飛ばしているんじゃなくて、私はここに飛ばしたいという意図があります。鷹はそれを理解して、私が狙った場所に飛んでいく。それは信頼関係がないと成り立たないことかなと思いますね」

筆者撮影
「いい仕事」には鷹との信頼関係が欠かせない

ペットではなく、仕事のパートナー

ふと、江頭さんが高校生の時の話を思い出した。「動物をかわいがれない仕事は違う」と思っていたところから、今は鷹とどう接しているのだろうか?

「かわいがってはいますけど、ペットではないので、一線は引いていますね。撫でたりもしないし、干渉しすぎない。仕事が終わればノータッチです。私がそばにいることがストレスになるので」

高校時代はかわいがる対象だった動物が、今は仕事のパートナーになった。自ら育て上げた、信頼できる3羽のパートナーを得た彼女の関心は、腕を磨くことにある。

師匠の岡村さんをはじめ、江頭さんが知るベテランの鷹匠たちは日々技術の改善に暇がない。訓練方法、鷹の飛ばし方も、数年前に教わったことと違う指導がされることも珍しくない。それは、「このやり方のほうがうまくいく」という実験と発見の賜物である。その姿勢を間近で見てきた江頭さんも、どん欲だ。