蓮ちゃん、真ちゃん、悠ちゃんとの生活
3羽の鷹を飼うのは、休ませるため。普段は午前に1件、午後に1件、各3時間ほど現場に入る。その場合、午前中と午後で鷹を使い分け、1羽は休日。疲労などを考慮し、3羽でローテーションするのだ。
先述したように、鷹匠の仕事の現場は千差万別で、その都度、判断力が問われる。最初のうちは実力不足で鷹がうまく飛ばせず、求められた追い払いの効果出せない日もあって、そのたびに落ち込んだ。
特に、自分の不注意で鷹にケガをさせてしまった時は、「もうやめたい」と思ったこともある。例えば、蓮ちゃんと工場でカラスの追い払いをした日のこと。いつものように蓮ちゃんを放った後、餌合子を鳴らして呼び寄せた。事故はその時に起きた。江頭さんから少し離れた位置に、低いフェンスがあった。羽を広げて戻ってきていた蓮ちゃんが、そのフェンスに真正面から激突してしまったのだ。
フェンスは見えているはず、飛び越えるはず、と思っていた。しかし、蓮ちゃんはエサをもらおうと視野が狭くなり、フェンスに気づかなかった。想像もしなかった事態だが、自分と蓮ちゃんの間に障害物があるところで飛ばさなければ防げた事故でもある。江頭さんは自己嫌悪で、頭を抱えた。それでも、一晩寝て起きると気持ちが切り替わった。
「ほかにやりたいこともないし、辞めたら私にはなにも残らない。今日も頑張ろう」
3羽の鷹とともに、現場を巡る日々。彼女のやる気を信じたグリーンフィールドの代表、伊駒さんは、その実力をこう評価する。
「鷹の扱いにしても、現場を見る目にしても、成長が早いです」
江頭さんが任される現場も次第に大きくなっていった。2019年7月には、ラグビーワールドカップで使用される花園ラグビー場でカラスの追い払いを担い、その様子はメディアでも報じられた。
関東エリアマネージャーとして腕試し
同じ年の秋、思い切った決断をした。
「関東からの依頼が増えてきて、そのたびに上司が関西から出張していたんです。それで関東に支社を作る話が出た時、上司はみんな家庭があって移住しづらかったから、『私、独り身なんでいきます!』と立候補しました。関西では上司が積み上げてきたものの上で仕事をしていたので、自分の力がどこまで通用するのか、試してみたかったんです」
肩書きは、関東エリアマネージャー。しかし部下はおらず、ひとりで関東全域をカバーする。3羽の鷹と上京して間もなく、新型コロナウイルスのパンデミックが始まった。この時期、一気に依頼が増えたそう。人間の活動が少なくなったことで鳥の警戒心が薄れ、それまで姿を現さなかったところで羽を伸ばすようになったのだ。例えば、ある大学では、カラスが我が物顔で構内を歩き回り、そのうち、人間が近づいても逃げなくなったという。
コロナ禍の需要は全国的なもので、グリーンフィールドは年間約3000件の依頼を受けるようになった。江頭さんも、すぐに多忙になった。今日は神奈川県、明日は千葉県と、鷹を乗せてひとり車を走らせる。帰宅してからも、「鷹中心の生活」に終わりはない。