鷹のトレーニングが始動

入社して1年後、一人前の鷹匠になるための最初のステップが始まった。鷹匠は、相棒となる鷹を自ら育てる。会社が専門ブリーダーから買い取った生後4カ月のメス「蓮ちゃん」を預けられた江頭さんは、想像以上にハードなトレーニングに臨んだ。

相棒の「蓮ちゃん」。8歳のメス。性格はフレンドリー
写真=江頭さん提供
相棒の「蓮ちゃん」。8歳のメス。性格はフレンドリー

蓮ちゃんが暮らすのは、実家に備え付けた小屋。まずは止まり木に足を固定し、その姿勢に慣らす。最初は暴れるが、次第に落ち着く。そのタイミングを見計らって、腕に乗ったら餌を与えるという動作を繰り返す。腕に乗ると餌がもらえることを覚えさせるのだ。

「その時に急に手を動かしたりして鷹を驚かせると、『手の上に乗るのは危ない』と認識してしまうので、驚かせない、嫌がらせないことが大切です。鷹は神経質で、鷹匠の世界では一度でも怖がらせたら終わりといわれているので、私はいつも、怖くないよ、大丈夫だよって声をかけながらやっています」

次の段階は、鷹を腕に乗せ、足につけた紐を握ったまま少しだけ小屋を出る。小屋の外の環境を知らない鷹は最初、緊張して餌どころではなくなり、羽をペタンと寝かせる。そのサインが出たら一度小屋に戻ってリラックスし、もう一度、ゆっくり小屋の外に出す。

初めて鷹を空に放った日

それができたら、次は鷹の視線にたくさんの情報が入らないように真っ暗にした部屋へ。クリアしたら玄関へ、そして外へと段階を踏む。外に出る時も、まずは夜から。当然、鷹は車や自転車、ほかの人間のことを知らないので、その気配や物音に敏感になる。そのたびに餌をあげて気をそらしながら、外の世界に危険はないと教え込んでいく。

朝昼は師匠と現場を回り、夜は毎日、トレーニング。その結果を毎晩、電話で師匠に報告し、わからないこと、不安なことがあれば確認する。鷹が夜に慣れるまで、だいたい1カ月かかる。夜に慣れたら、昼間に連れ出す。情報量の多い昼の環境に適応するまで、さらに1カ月。昼間に落ち着いていられるようになったら、現場に連れていく。そこで師匠のお墨付きを得たら、初めて鷹を放つ。

「最初に紐を手放すときはドキドキですね。100%戻ってくるという確証がないと紐は外せないんですけど、それでも万が一戻ってこなかったらどうしようと不安になります」

変化に気づかない人に鷹匠はできない

ひと通りのトレーニングが終わるまで、およそ3カ月。鷹が追い払いの仕事をこなせるようになったら、新米の鷹匠もひとり立ちする。江頭さんも、入社して1年半後には「蓮ちゃん」を連れて現場を巡るようになった。

ここから、「さあ、蓮ちゃんと二人三脚」で、ということにはならない。なんと、翌年には生後4カ月の「真ちゃん」を渡されて、またイチからトレーニング。さらに次の年にも別の鷹をトレーニングし、その次の年には「悠ちゃん」が江頭さんのもとにやってきた。一羽は別の鷹匠の手に渡ったが、江頭さんはひとりで蓮ちゃん、真ちゃん、悠ちゃんという3羽の雌を育ててきた。

相棒の「真ちゃん」。7歳のメス。性格は神経質
写真=江頭さん提供
相棒の「真ちゃん」。7歳のメス。性格は神経質
相棒の「悠ちゃん」。6歳のメス。小柄なのに性格は大胆
写真=江頭さん提供
相棒の「悠ちゃん」。6歳のメス。小柄なのに性格は大胆

「鷹はそれぞれに性格や個性があるので、それを見極めなくちゃいけません。トレーニング中も、我慢させないといけないのか、これ以上やり続けると嫌がるなっていうのを判断します。早い段階でやめてばかりいるとわがままで神経質になるし、無理やり強制し続けると、言うことを聞かなくなる。顔を見れば嫌がっている、嫌がっていないというのがわかるようになります。変化に気づかない人は、鷹匠はできないと言われていますね」