江頭さんがグリーンフィールドの採用通知を受けたのは、12月。就職する同級生のなかで最後だった。採用の決め手になったのは、伊駒さんが鷹匠の生活を伝え、覚悟を問うた際、江頭さんが「それでも鷹匠になりたい」と強い意志を見せたことだった。

2015年春、グリーンフィールドに入社。江頭さんが「師匠」と呼ぶ岡村さんのもとで修業が始まった。鷹匠として基本的な注意事項や動作はあるが、現場次第で鷹匠の仕事も鷹の動きも変わる。例えば、工場では電線が密集していたり重機が稼働しているところで鷹を飛ばしてはいけない。鷹がケガをする恐れがあるからだ。最近、ハトの被害が増えているマンションでは、実際に鷹がハトを見つけると捕食してしまう可能性があるので、明らかにハトがいない場所を狙って鷹を放つ。

江頭千景さん
筆者撮影
江頭千景さん
筆者撮影
江頭千景さん
筆者撮影

マニュアルのない仕事

今回の取材で同行した大学のキャンパスのような広い場所では、カラスの巣を探すところから始まり、カラスが何をしに来ているのか、どこに鷹を止めたらカラスが嫌がるのか、鷹を飛ばしながら探っていく。マニュアルなどない仕事で、「習うより慣れろ」「見ておぼえろ」という職人の世界だ。

「師匠の動作を見た後、師匠の鷹を借りて同じようにやってみて、それは違う、手はこうだとか、タイミングがどうだって教えてもらって。それをひたすら毎日繰り返していましたね。新入社員の頃は、腱鞘炎から始まります。鷹を腕に乗せるような姿勢で日常生活を送らないじゃないですか。だから、最初のうちはずっと手が震えてる感じでした」

同時に、社会人1年生としてクライアントとの挨拶や名刺交換、プレゼンや説明の仕方など学ばなければことが山ほどある。当時を振り返り、江頭さんは「頭がいっぱいいっぱいでした」と苦笑する。

カラスやハトを目掛けて鷹は放てない。絶妙な距離をとるのも難しいという
筆者撮影
カラスやハトを目掛けて鷹は放てない。絶妙な距離をとるのも難しいという