乳酸菌飲料と睡眠の相関関係

2020年、筑波大学と慶應義塾大学の研究チームが、抗生物質を与えて腸内細菌を除去したマウスと通常のマウスの睡眠の質を比較する実験を行ないました。

その結果、腸内細菌を除去したマウスは、睡眠時のノンレム睡眠が減りました。さらに、活動がさかんな時間帯なのに起きている時間が減少したり、ノンレム睡眠に入ることが多くなったりしたことが明らかになりました。

本来なら起きている時間帯に、脳や体の活動を抑制するノンレム睡眠が多く現れるのは明らかに異常です。睡眠と起きている状態のリズムが崩れて、昼夜のメリハリが弱くなっていたことがわかりました。

また、腸内細菌を除去したマウスを調べたところ、通常のマウスよりもセロトニンなど114種類の物質が減少していたことも判明したのです。これらの物質をつくり出す腸内細菌がいなくなったことが睡眠に影響を与えたことは間違いないでしょう。

昨今、乳酸菌飲料と睡眠の関係が注目されています。ヤクルトと徳島大学が行なった共同研究では、94人の大学生を対象に「乳酸菌飲料を飲んだグループ」と、「乳酸菌飲料を飲まなかったグループ」に分けて、11週間にわたり睡眠の影響を調べました。

その結果、乳酸菌飲料を飲まなかったグループは、もっとも深いノンレム睡眠(N3)の時間が短くなり、乳酸菌飲料を飲んだグループは、N3の時間が短くならなかったことが示されました。この研究報告から、乳酸菌が腸内環境のバランスを改善したことで睡眠の質が高くなったことが考えられます。

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バランスのよい食事に、腸内細菌が喜ぶ乳酸菌をプラスする

乳酸菌が、腸内環境に良いことはよく知られていますよね。では、どうして腸内環境に良いのでしょうか?

このように質問すると、「食べ物や飲み物から摂取した乳酸菌が腸に住みついて、腸内環境のバランスを整えている」と答える人がいますが、実はそうではありません。

摂取した乳酸菌は腸を素通りするだけです。住みつくことはありません。腸を通過するときに、何かしらの腸内細菌に働きかけを行なっているようです。

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つまり、腸内細菌にとって乳酸菌は、ときどき現れるサポーターのようなもの。そのため、日々、乳酸菌を摂取して、絶え間なく腸内細菌を応援してもらうことが重要です。

毎日、しっかり寝ているのに、日中の倦怠感があるなど、睡眠の質が低下している人は、栄養バランスのとれた食事に、乳酸菌など腸内細菌が喜ぶ栄養素を少しプラスするような習慣をはじめてみたらどうでしょうか。

また、体内時計も「食事の刺激」によっても整えることが可能です。いつも同じ時刻に食事を摂ることで、その時間帯になるとお腹が空く「食餌同期性リズム」を利用しましょう。「食事の刺激」はマスタークロックの同調とは別のルートで、全身の細胞のサブクロックのリズムを刻みはじめます。