薬の飲み過ぎが原因で症状が悪化することも

慢性化した頭痛の種類や原因を特定することは、患者本人はもちろん、専門医にとっても簡単なことではない。しかし頭痛の種類によって対処法が違い、その判断は慎重に行わなくてはいけない。

「例えば片頭痛と緊張型頭痛の一番の違いは、片頭痛のほうが生活への支障度が大きいことです。寝込んでしまったり、吐いたり、動けないという感じ。

緊張型頭痛の場合は、体を動かしたり、お風呂に入ったり、マッサージしたりすることで症状が良くなったりしますが、片頭痛の人がこれらをすると逆にひどくなってしまいます。

片頭痛には他にも、光が眩しいとか、音がすごく響くなどの過敏な症状が出るという特徴があります」

もともと片頭痛のある患者に別の「2次性頭痛」が起こり、危険な頭痛が見逃されてしまったり診断が遅れることもある。日本頭痛学会が監修する「頭痛診療ガイドライン」によると、突然激しい痛みに襲われる頭痛、麻痺や言葉が出ないなどの神経症状を伴う頭痛、50歳以上で初めて発症した頭痛などに注意するように警告している。

頭痛外来では「1次性頭痛」である慢性頭痛の治療を行うことが主な目的ではあるが、それと同時に危険な「2次性頭痛」が隠れていないか、常に気を配ることも重要な役割なのだ。

「私のように薬の飲み過ぎが原因で症状が悪化することもあるので、注意が必要です。市販の痛み止めを使って我慢している方の中には、まだ痛くないけど前もって飲むという人も結構多いので。

もし月に10日以上頭痛があり、それが3カ月以上続くようであれば慢性頭痛の可能性が高いです。すでに生活に支障が出て困っているという方は、一度頭痛外来の受診を検討されてもいいかもしれません」

頭痛外来は「初診」に時間をかける必要がある

頭痛の症状には、はっきりと目に見える外傷や数値化できる検査は存在しない。そのためなかなか周囲の理解を得ることが難しく、そのことで悩んだり無理をしてしまう患者も多い。

頭痛外来の診断や治療においても同様で、正確な症状を把握するには患者の訴えが大きな判断材料となるため、問診が非常に重要視されている。

撮影=奥田真也
腹腔鏡(小型カメラ)を使った子宮摘出手術を行う稲垣

「初診にめちゃくちゃ時間かかるんです。生活スタイルやどんな時に頭痛が起こるかなど、かなりいろんなことを聞いて診断しないといけないので。

あと生活指導をしたり、日記をつけてもらったり。頭痛は時間が経つと、どういう時に起こったか忘れてしまうので、『頭痛ダイアリー』というのに記録して持ってきてもらっています」

頭痛ダイアリーとは、患者自身が頭痛の起こった日時、痛みの種類や強さ、継続時間、服薬の有無などの項目を記録する小冊子である。医師が頭痛のタイプや原因を絞り込み、的確な診断をするための重要な手がかりとなる。

稲垣が千船病院に入職したのは約10年前のことだ。そこで頭痛外来を立ち上げることになった。脳神経外科など関連する他科との連携には不安もあったが、実際はほかの診療科の医師からも歓迎されて非常に快く受け入れられているという。

産婦人科の外来と併せて行なっているため、稲垣が担当できるのは週1回のみ。頭痛外来の存在が知られるようになり、今は新患予約が1カ月待ちの状態だという。

「患者さんのニーズはすごくあると思います。医師である私ですら、何科を受診したらいいのかわからなかったくらいなので。

これまでは1人でやってきましたが、嬉しいことにこの病院の産婦人科の先生が頭痛専門医を取得する勉強を始めたので、去年から2人になってちょっと楽になりました」