一方、最悪社員を選抜する戦略では、常識仮説の下では、組織効率は平均を下回ってマイナスになるが、ピーターの仮説下では、最悪社員を昇進させることで、むしろ組織効率は平均を上回ってプラスになる。
しかし、どちらの仮説もありうる以上、最良社員を昇進させるのも最悪社員を昇進させるのも、組織効率がマイナスになってしまうかもしれないというリスクをともなう。
ところがランダム選抜だと、どちらの仮説の下でもプラスは小さいが、マイナスにならない。したがって、組織はランダム昇進を選択することが効率化の近道となる(と、この研究者たちは考えている)。
そもそも優秀な営業マンが優秀な営業課長になるとは限らないし、まして名社長になるわけでもない。課長には課長の、経営者には経営者の適性がある。その意味で、成果主義で人事を決めることに私は反対だ。
日本の大企業の人事担当者への聞きとりで判明したが、入社試験では、就職希望者が「現場で優秀な人材」かどうかでなく、「将来、管理職になれそうな人材」を採用する暗黙の前提がある。また人事評価も、金銭や役職で与えるのではなく、いい仕事をした人には「より大きな予算・事業」を与えることで社内のダイナミズムを生み出した。つまり仕事の報酬には仕事を与えてきたのだ。今回のイグノーベル賞は、成果主義の危険性を面白おかしく指摘し、「適材適所」の大切さを改めて痛感させてくれるものだ。
※すべて雑誌掲載当時
高橋伸夫
1957年、北海道生まれ。98年より現職。著書に『虚妄の成果主義-日本型年功制復活のススメ-』『ダメになる会社』など多数。