誰をどう昇進させ、昇給させるか。異動をどうするか、そもそもどんな人材を採用するのか。人事に関する悩みは尽きない。私も職業柄、いろいろな企業の人事担当者と話をするが、みな正解がわからず、いつまでたっても悩んでいるようだ。そこで紹介したいのが、2000年のイグノーベル賞経営学賞を受賞した、イタリア・カターニア大学のチームが行ったシミュレーションだ。彼らは「ピーターの法則」(発表は1969年)に基づいて、「成果主義より、社員をランダムに昇進させたほうが組織は効率化する」ということを証明したのだ。
「ピーターの法則」とは、「階層社会では、すべての人は昇進を重ねても職務遂行能力はともなわない」「すべての人は、いずれはその人の『無能レベル』に到達し、やがてあらゆる地位は職責を果たせない無能な人間で占められる」というもの。たとえば、教師として生徒に教えるのが上手な先生が、管理職である教頭先生になっても、教頭先生として有能かどうかはわからないということだ。
シミュレーションでは、昇進者の選抜方法として「一番成績のいい社員を昇進させる」「成績最低の社員を昇進させる」「ランダムに昇進させる」という3つの戦略を設定した。「有能だった社員は、出世しても有能だろう」という常識仮説の下で、一番成績のいい社員を選抜した場合、当然、組織全体の効率は平均と比べてプラスになる。しかし、「有能だった社員が出世後も有能とは限らない」とするピーターの仮説下では、最良社員を選抜していると組織効率は平均を下回ってマイナスになってしまった。
一方、成績最悪の社員を選抜する戦略は、常識仮説の下では組織効率が平均を下回ってマイナスになるが、ピーターの仮説下では、むしろ組織効率は平均を上回ってプラスになった。しかし、どちらの仮説もありうる以上、最良社員を昇進させるのも最悪社員を昇進させるのも、組織効率がマイナスになるかもしれないリスクをともなう。
ところがランダムに昇進させた場合、どちらの仮説の下でもプラスは小さいが、マイナスにもならなかった。結論として、組織はランダム昇進を選択する=サイコロを振って出世を決めることが、効率化への近道となるのである。