「手先が器用選手権」を彷彿とさせる4つの競技
話を戻そう。制作スタッフからの依頼を受けて「手先の器用な女性の学生」を探すことになった私は、本学の芸術文化学群の学生のなかから3人の候補を番組側に提出した。要望通りに送った映像の選考の結果、松本きらり氏というビジュアル・アーツ専修の学生が通過した。
そして番組プロデューサーによる面接を経て、出演が決定した。スタジオの収録は6人の手先の器用さに自信を持つ素人が集められて、おこなわれた。そのなかのひとりに選ばれたのであるから、光栄なことだ。しかも、学生はひとりだけである。
競技は4つあり、最初のステージで6人が4人に絞られ、そのあとはステージごとにひとりずつ脱落してゆく。最後まで勝ち残ると、賞金50万円を手にすることができる。1つ目の競技「ティーアップ・ビーンズ」は、テーブルの上にある小さな豆を箸でつかみ、背後にある一列の棒のうえに並べていく。11個並べると完成だが、細かく震えている豆をつかめる器用さとそれを幅の狭い棒のうえに並べる根気強さを求められる。
2つ目の競技「ローリングダイス・タワー」は、回転する台の上に小さなサイコロをピラミッド状に積み上げる。ピラミッドの上に行けば行くほど、置ける場所は狭くなるため、手先の器用さと同時に集中力が要求される。
3つ目の競技「ピンホール・デスロード」は、左右や上下に動いたり、回転したりする針の穴に糸を通す。すべての針の動きが違うというところに難しさがある。そして最後の競技「TESAKIプリズン」は、棒の上に小さな人形を乗せて、さまざまな障害物を乗り越えてゴールを目指す。根気、集中力、手先の器用さなどすべての能力を総動員して挑まなければならない。
「手先が器用選手権」が「TESAKI」に生まれ変わった背景
そんなふうに内容的には従来の「手先が器用選手権」と変わりがないように見えるが、タイトルを「TESAKI」にしたのには「海外フォーマットセールス」を狙っているという大きな理由がある。そしてそこには、テレビ局の意識や戦略の変化を見て取ることができるのだ。
「フォーマットセールス(フォーマット販売)」とは、直接、番組自体を売る「番組販売」と違って、テレビ局が番組のアイデアやコンセプト、構成、ノウハウをひとつの「フォーマット=かたち」として売る方法である。購入したテレビ局や制作会社は、そのフォーマットに乗っ取って自国の制作スタッフ、出演者で「現地版」を制作する。
海外へのフォーマットセールスの代表例としては、「マネーの虎」(日本テレビ系)、「SASUKE」(TBS系)、「料理の鉄人」(フジテレビ)の3つが挙げられる。