1992年に「TVチャンピオン」(テレビ東京)で始まった「大食い選手権」は、なぜいまでも続く人気企画となったのか。社会学者の太田省一さんは「番組のメインは芸能人ではなく無名の一般人だからこそ面白い。こんな思い切った企画は他局ではできなかっただろう」という――。

衝撃的だった「ギャル曽根」の登場シーン

さかなクンを生んだ番組として知られるテレビ東京「TVチャンピオン」。一方で、この番組の目玉企画を聞かれ、大食いをあげるひとも多いだろう。

今回は、「TVチャンピオン」から「元祖!大食い王決定戦」に至る歴史のなかで誕生した大食いスターたちを名勝負とともに振り返る。そして私たちがこうも大食いに惹きつけられる理由を探ってみたい。

大食い番組出演をきっかけに芸能人に転身したと言えば、いうまでもなくギャル曽根である。

「桜を見る会」に招待されたタレントのギャル曽根さん(=2008年4月12日、東京・新宿御苑)
写真=時事通信フォト
「桜を見る会」に招待されたタレントのギャル曽根さん(=2008年4月12日、東京・新宿御苑)

大食い番組初登場は、2005年11月6日放送の「元祖!大食い王決定戦〜信州・上越編」。この番組は、「TVチャンピオン」の一企画だった大食いが独立して番組になったもの。その2回目に登場したのが彼女だった。

このときはまだ素人で、本名の曽根菜津子。当時19歳。「ギャル曽根」と名づけたのは、「さかなクン」のときと同じく番組MCの中村有志(現・中村ゆうじ)である。むろん由来は、大食い番組に似つかわしくないギャルメイクとギャルファッションだった。

なぜか蕎麦ではなく天ぷらを食べる

信州ということで、大食い自慢6人での蕎麦の大食い対決。対戦相手の5人が驚異的な速さで食べ続けるなか、ギャル曽根もまったく負けていない。嫌いだと話していた蕎麦だったが、「美味しい」と言って次々と平らげ2番手につける。

しかし、残り20分で異変が。蕎麦嫌いということもあってか、ややペースが鈍る。それでも食べ続けるギャル曽根。だが徐々に順位は下がっていく。残り5分。ギャル曽根は5位とわずかの差ながら最下位に。ここでの脱落者は1人のみである。

「どうするギャル曽根!」となったそのとき、脇に積んであった天ぷらをおもむろに食べ始めた。ただし天ぷらはいくら食べてもカウントされない。「これは味変のため?」と思われたが、そばを食べずにずっと天ぷらだけ食べている。

「天ぷらばかり食べております!」と、戸惑いの入り交じった驚きの声をあげる中村有志。それでもギャル曽根はニコニコしながら天ぷらを食べ続ける。

そして天ぷらを完食したところでタイムオーバー。ギャル曽根は最下位のままここで脱落となった。だがよほど美味しかったのか、終わっても隣の対戦相手の天ぷらに箸を伸ばしている。「あなたはいったい何者だぁ?」とあきれたようにツッコむ中村有志だった。