絵画を観るということ

絵画鑑賞は見る者がその背景にある歴史や文化、画家の人生や作品に込めた思いを理解しようとし、想像を膨らませることで、豊かで広がりのある体験になるのだと思います。

16世紀中頃から後半にかけてのヨーロッパは、美術史的には「マニエリスム」の時代です。ルネッサンス期からの流れで宗教的なテーマが題材とされることが多く、表現は感情的で寓意[アレゴリー:林檎(アトリビュート)が原罪を意味するようなこと]が多用されました。それは絵画が祈りをつなぐツールとしての役割を担っていたことと関係しているはずです。

フェルメールはマニエリスムの後、バロック期に誕生した画家です。引き続き宗教画が多く描かれた時代ですが、彼は宗教画をあまり描いていません。オランダはプロテスタントの国で、クライアントが教会から市民の富裕層に移ったこともあり、宗教画よりも風景画や日常を描いた作品が好まれました。有名な「真珠の耳飾りの少女」や「牛乳を注ぐ女」も、市井の人や庶民の生活を描いています。

人間の脳は右脳が感性、左脳が論理を司っているとされます。作品そのものの迫力や美しさに感動するのは右脳ですが、作品にまつわる知識を理解するのは左脳です。左脳に知識を備えて改めて作品を目にすると、初見とはまた違った視点で作品を楽しめます。

美術作品はまた“実物”を見ることに、計り知れない価値があります。作品の大きさや筆跡、絵の具の厚みなどを通じて画家の存在をリアルに感じ、自分が作品に溶け込んでいく感覚を味わうことができるからです。

企画展などがあると、日本でもいながらにして世界の名作にお目にかかれる機会があります。それは幸せな機会ではありますが、所蔵の美術館まで行くと、作品が置かれた空間の雰囲気、他の作品との配置の間合い、静寂の中で心ゆくまで何時間でも見入っていられます。その場所へたどり着くまでの旅程もまた、作品に対する思いの一部になるでしょう。

その時代の人々の価値観や表現の技法、画家の思いを次世代に伝え残していく絵画は、私たちが扱う生命保険にも相通じるところがあります。設計上は数学的要素が強い商品ですが、その根底には過去と今をつないで未来をつくっていきたいというお客様の“思い”がベースになっているからです。