「金利操作」「量的緩和」「質的緩和」はこう変わった

次に、第2の「量的緩和」です。日銀が世の中に供給したお金の残高を示すマネタリーベース(資金供給量)について「拡大方針」を掲げていました。具体的には「消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続する」としていました。オーバーシュート型コミットメントと名付けられた政策です。

第3の「質的緩和」とは、リスクの高い資産を買い入れる政策です。多くの企業の株式にまとめて投資し、株価指数に連動する運用成果を目指すETF、様々な不動産に投資し、そこから得た利益を投資家に分配するREIT、企業が借金する際に発行するコマーシャルペーパー(CP)や社債といったものを買ってきました。

では、この3つの柱がどのように変化したのでしょうか。第1に「金利操作」の部分。短期金利については、政策金利として前出の翌日物金利そのものを採用し、誘導水準を「0~0.1%程度」としました。長期金利操作は撤廃されました。第2の「量的緩和」は、その柱であるオーバーシュート型コミットメントは無くなりました。日銀が「資金供給量の拡大」、つまり量的緩和とは距離を置いたことを意味します。

第3の「質的緩和」は、ETFとREITは「新規の買い入れを終了する」と決定。CPと社債については「買い入れを段階的に減額し、1年後をめどに終了する」と決めました。

写真=日本農業新聞/共同通信イメージズ
日本銀行本店本館建物=2023年5月25日、東京都中央区

世界経済の構造的変化に目を向けるべき

日銀による17年ぶりの利上げという大きな転換点が来たのは、長年、デフレに苦しんできた日本経済が、ついに「インフレの状態」(植田和男総裁)になったためです。

異次元緩和開始前(2013年3月)と今回の金融政策の枠組み見直しの直前(24年2月)の経済・市場環境の簡単な比較から見て取れるのは、円高や株安が修正された点です(円安は行き過ぎたと言えますが)。長期国債の思い切った買い入れによる資金供給や大規模なETF購入を通じた株価下支えが背景でしょう。ただし、もっと構造的な大きな変化が日本や世界の経済に起きている事実に目を向けるべきです。新型コロナウイルス危機とウクライナ戦争です。

米国では、コロナ禍のもとでの生産・物流の混乱や人手不足が物価に上げ圧力をかけました。21年の年初にFRBの目標である2%を下回っていた米国の消費者物価上昇率(前年比)は、年末に7%程度を記録しました。海外のインフレはすぐに日本に大きな影響を与えることはありませんでしたが、原油価格上昇の影響などから輸入物価は上がりました。

これは資源を海外から輸入する企業の経営に影響を及ぼす話ですが、長年物価があまり上がらない状態が続いてきた日本では、製品の価格に転嫁するのは簡単ではなく、消費者物価の上昇にすぐには結びつきませんでした。ただ、物価高の素地は形成されていたといえます。