最大勢力・東北三省の名物は「特大の骨付き肉」

4.東北料理

在日中国人はいまや82万人を超え、日本在住の外国人で最大勢力を誇っているが、その中でも最も人数が多いのが東北三省(遼寧省、吉林省、黒竜江省)の出身者だ。法務省の在留外国人統計では2011年まで出身省別の統計をとっていたが、そのときまで最も多かったのが遼寧省、次いで黒竜江省、福建省、吉林省だった。

東北地方は旧満州だったということもあり、中国残留日本人孤児やその子どもが帰国して定住、中には中華料理店を開いているケースもあり、ガチ中華の先駆けとなったのが東北料理と言われる。都内で比較的早くから中国関係の仕事をしていたり、中国語を学んだりしていた50代以上の日本人に聞けば、多くの人の口から池袋の「永利」の名が挙がるだろう。

10年以上前のことだが、同店の入り口には大きなドラム缶のようなものが置いてあり、その中に「東北醤大骨」という、まるで木の切り株のような見た目の骨つき肉の塊が入っていた。同店の名物料理なのだが、お皿に盛られた茶色い物体はインパクトが大きかった。これもガチ中華という言葉がまだなかった時代、「まるで中国の東北に旅行に行ったみたいだ」「中国の臭いがする」と感じたものだった。

黄色いパンを貼り付けたユニークな鍋はこちら

近年は、東北料理店だけに限らないが、「東北鉄鍋炖」というトウモロコシの粉で作ったパン(まんじゅう)を鍋の内側に張り付けて蒸し、具材と一緒に食べる料理が流行り出しており、埼玉県川口市の「盛興順鉄鍋炖」など、料理名がそのまま店名になった店などが増えている。

筆者の友人より提供
黄色いパンを鍋の周囲にぐるっと貼り付けたユニークな見た目の東北料理

もう1軒、東北料理といえば、神田などにある「味坊」が代表的存在だ。羊肉の串焼きや羊を使った水餃子など羊肉料理などが有名で、手広くチェーン展開しており、ガチ中華といえるが、ガチ中華という言葉が流行する以前からガチの代表のような店だ。ほかにも、東北料理と銘打っていなくても、東北出身者が経営したり、コックをしたりしている中華は非常に多い。

私の本で取材した若者は大連出身だったが、父親は十数年前に出稼ぎで来日、池袋の大連料理を中心とする中華料理店で妻とともに働いていると話していた。その店には大連風酢豚という珍しい料理があり、美味だった。

5.西北料理

西北料理という中華料理のジャンルを聞いたことがない人は多いと思うが、西北地方とは内陸部の甘粛省、青海省、寧夏回族自治区、新疆ウイグル自治区、陝西省、山西省などを指す。これらの地方名を聞いて地図が思い浮かばなくても、西安という地名は聞いたことがある人は多いだろう。中国の古都、長安の現在の地名が西安だ。