空心菜やガチョウを卸す「ガチ中華用農家」がある

私自身も数年前に貴州省を訪れた際、ほぼ毎日、代表的な貴州料理の「酸湯魚」を食べた記憶がある。貴州大学の先生や学生たちと大勢で鍋を囲んだのだが、ほとんどの料理が辛かった。そのとき初めてドクダミの和え物を食べた。

まさか新小岩の同店のように、東京でドクダミが食べられるとは思わなかったが、近年は、私の著書に出てくる農場のように、中国人経営者がササゲ、茎レタス、空心菜などの中国野菜やアヒル、ガチョウ、羊などを生産しており、在日中国人にSNSで直販したり、中華料理店に卸したりしている。

これも一種の「中国式エコシステム」「中国経済圏」といえるだろう。料理店が仕入れる食材も中国人生産者(農家)なのだ。ザリガニなどの食材と同様、従来、日本の中華には入っていなかった食材を食べるようになったのもガチ中華の特徴といっていいだろう。

3.四川料理

四川料理はガチ中華ブームより以前から日本人に馴染みのある中華料理の一つで、日本人の食生活に定着したのが四川の麻婆豆腐だといっていいだろう。今では回鍋肉も「ホイコーロー」(正しくはホイグオロウ)と読むのが日本人の間でもほぼ当たり前になってきたし、エビチリも四川料理だ。そのため、四川料理をわざわざガチ中華と呼ばない人もいるかもしれないが、ガチとして近年増えてきたのは、何といっても火鍋だ。

よだれ鶏、花椒炒め…「ガチ中華」浸透の立役者に

前述の四川省発のチェーン店「海底撈火鍋」の火鍋を皮切りに、「潭鴨血タンヤーシェ」の「毛血旺」(鴨血という鴨の血を蒸して固めたものに野菜やホルモンなどをいれた辛い鍋)、「成都姑娘」の「酸菜湯」など、従来はこれまで日本に上陸していなかった種類の火鍋が人気になった。

四川料理のひとつ「酸菜湯」
筆者撮影
四川料理のひとつ「酸菜湯」

ほかにも日本に馴染みのないガチ中華の四川料理だった「口水鶏」(よだれ鶏)、「辣子鶏」(鶏肉を唐辛子や花椒などと炒めた料理)、「夫妻肺片」(牛ホルモンの辛味和え)などを提供する店も増え、四川料理は1の湖南料理、2の貴州料理よりも非常に有名で、かつ、いまも人気がある。

都内の店舗数を把握することはできないが、もしかしたら、ガチ中華の中では1、2を争う数の多さかもしれない。四川料理は、日本人がシェフをつとめるレストランも増えている。ガチではないけれど、日本風にアレンジしたわけでもない創作四川料理だが、こうした点をふまえても、四川料理の日本での幅は非常に広いといえる。