入院が必要なほど悪化していた

「何か目に白いところがあるんです」

Aさんは、「パソコンで仕事をしていたらちょっと見えにくくなってきた」とのことで、心配して眼科を訪れました。

実際にAさんの目を見ると、角膜という黒目の部分に、確かに白い部分がありました。それは「角膜潰瘍かくまくかいよう」という状態でした。

筆者撮影
角膜潰瘍を発症した目の例

角膜潰瘍というのは黒目に菌が入って、黒目の状態が悪くなってしまうという病気です。視力が下がり、最終的には失明してしまうことさえあります。

さらに、Aさんの目は角膜潰瘍が起こった上に、目の中に菌が入って膿がたまってしまっている「前房蓄膿ぜんぼうちくのう」という状態でした。

「これは入院して治療が必要です」と伝えると、Aさんからは「そんなことを言われても仕事があるんです」と返されてしまいました。

仕事に影響が出て心配なのはわかるのですが、目の中にまで菌が入ると外来での治療は困難です。Aさんにはなんとか納得してもらい治療となりました。

この状態になると、目薬を処方するという治療だけでは対応できません。まず、Aさんには目薬で麻酔をしました。その後、黒目をナイフで削り、その削ったものからどういう菌が原因だったのかを調べました。

そして、その菌に対する抗生物質を点滴し、抗生物質の入った目薬をこまめにさしてもらって症状を抑え込むという治療が必要でした。Aさんは結果的に仕事も休まなければならず、長期の治療となってしまいました。

なぜ1カ月もつけていたのに気付かなかったのか

Aさんは衛生環境の悪いところで生活しているわけでもなく、仕事も事務仕事、特別汚れたものが目に入る機会もありません。

ただ、Aさんは、コンタクトレンズの使用方法に問題がありました。そもそも1dayコンタクトは、名前の通り1日で使い捨てることを前提に設計されています。

洗浄液や水道で洗うと、傷をつけて劣化を進めたり雑菌が繁殖しやすかったりするのです。基本的なことですが、一度外したら再度つけてはいけないのです。

Aさんは1dayコンタクトを1カ月も使い続けていましたが、最初は角膜(黒目)への傷が小さなものですんでいました。その時にゴロゴロしたりちょっと充血していたようですが、「疲れているのか」と思い、あまり気にしていなかったようです。

またAさんは、たまに外した際に痛みを感じ、むしろ「コンタクトレンズを付けると楽になる」とも言っていました。これはなぜでしょうか?

角膜は非常に繊細な組織で、痛みを感じやすい場所です。そのためちょっと目にゴミが入っても激しく痛みを感じます。

けれどもコンタクトレンズを付けると絆創膏を貼ったかのように目の表面を覆ってくれるので、傷はついているけれども痛みを感じにくかったのです。

目に傷がついて、そこから菌が入っていたとしても、コンタクトレンズをつけることで症状が一時的に和らいでいたのです。結果的に症状を悪化させる原因にもなってしまいました。

しかし、細菌がいなくなったわけではありませんでした。むしろコンタクトレンズによってより傷つきやすくなり、菌が繁殖しやすい環境だったのです。最初はちょっとした傷だったのに、菌が目にしっかりとはびこって、最後は白い塊となってしまったのです。

その状態になると目薬程度で治すのは難しく、黒目を削ったり点滴などの治療が必要になってしまいます。ではAさんはどうすればよかったのでしょうか?