目を酷使するプロは、視力をどうやって維持しているのか。雑誌「プレジデント」(2019年7月19日号)の特集「眼医者、メガネ屋のナゾ」では、「目が命」のプロたち5人に話を聞いた。1人目は外科医の天野篤氏だ――。(第1回、全5回)
▼「老眼になって引退」からの生還法

2012年、東大病院で行われた天皇陛下(現・上皇)の冠動脈バイパス手術に加わり、執刀医を務めた天野篤さん(順天堂大学医学部教授)。心臓を停止させないオフポンプ手術の第一人者として、年間400例以上の手術を行ってきた。眼の疲れや老眼による見えにくさへの対処法を聞いた。

老眼は3度やってくる

最初に、「近くが見えにくい」と老眼を感じたのは42歳だった。このときは焦点を遠くにすれば対処できた。2回目に感じたのは「暗くて見えない」ということで、その6年後ぐらい。心臓外科医として「あと数年か」と思わざるをえなかった。当時、外科医は老眼が進む50代で、手術からは引退と言われていたからだ。

順天堂大学医学部附属順天堂医院 院長 天野 篤氏

この頃、医療番組の収録でNHKに行ったところ、アナウンサーの古谷和雄さんがメガネもかけずに台本を読んでいたのを見て驚いた。すでに定年を迎えられた年齢で、聞いてみたら「遠近両用のコンタクトレンズなんですよ」という。実はこの2週間前に、同級生の眼科医からも「遠近両用のコンタクトレンズは意外といい」と言われていた。中学時代から、近視と乱視の矯正でハードコンタクトレンズを使用してきたが、早速、地元のメガネ量販店に行って試したら、元通りによく見えるようになって、不安が一気に吹き飛んだ。

私が使用しているのはレンズの中心から端に向かって度数が徐々に弱くなるタイプだ。だが、目の矯正は、その人のライフスタイルに応じて、求めるものが変わってくる。私の場合は遠近両用のコンタクトレンズがぴったりと合ったが、メガネのほうが合う人もいるだろうし、中近両用のほうが合う人もいるだろう。自分で満足できるまで試行錯誤したほうがいい。

角膜に傷がついたなどのケアのために眼科医を受診することは重要だが、「見え方」についての情報提供はメガネ店のサービスが充実している。それから、店は変わったが、ずっとメガネ量販店で2~3年に1度ずつ買い替えている。

最近、老眼の3段階目がきていて、視界がさらに暗くなるときがあり、そんなときは手術中の細かい部位を見るのが億劫になってきた。そこで、手術で助手として指導する場合は、手元にフラッシュライトを置いて術野を思いっきり明るく照らしている。このフラッシュライトは医療用ではないのだが、このようにちょっとした道具をうまく使うことで、外科医として現役を続けるだけでなく、長年積み重ねてきた「経験の眼」を今後もさらに活かせると考えている。