目を酷使するプロは、視力をどうやって維持しているのか。雑誌「プレジデント」(2019年7月19日号)の特集「眼医者、メガネ屋のナゾ」では、「目が命」のプロたち5人に話を聞いた。3人目は時計職人の松浦敬一氏だ――。(第3回、全5回)
▼2時間作業したら30分、海を眺める

広島県の大崎下島・御手洗地区にある新光時計店は、創業150年を超える時計店。メーカーでも修理不可能な時計が持ち込まれる「時計の駆け込み寺」として、全国に知られる。同店の4代目で、時計職人として50年以上のキャリアを持つ松浦敬一氏に話を伺った。

0.5ミリ以下の部品をピンセットで修理

新光時計店4代目 松浦敬一氏

私は2019年で75歳になりますが、今も視力は両目とも1.2あります。時計の部品はどれも非常に細かく、一番小さなネジは0.5ミリ以下です。それを右目につけたルーペで見ながら、ピンセットで細心の注意を払って修理します。埃が風で舞ってしまうため、真夏でもクーラーや扇風機の使用には細かい注意を払い、呼吸にも気を使います。当店に持ち込まれる時計は数十年前に作られた、メーカーにも部品の在庫が残っていない製品が珍しくありません。難しい修理は2日がかりになることもあり、その間は集中しているので目を酷使することになります。時計職人にとって目は何より重要な商売道具ですから、若いときから大切にしてきました。

目が悪くなる原因は、眼球の水晶体を調節してピントを合わせる毛様体筋に緊張が続いて、うまく働かなくなることです。目の筋肉の緊張をほぐすため、私は2時間ほど作業をしたら必ず外に出て、30分ほど桟橋から海や瀬戸内海の島々を眺めることにしています。緑に覆われた島やカモメが飛び交う遠くの海を見ていると、疲れた目が休まるのです。会社で働く人も、しばらくパソコンで作業をしたらビルの屋上などで、遠くの景色を眺めることをお勧めします。