再開発と医療体制の増強は同時に行うべき
さいたま市の担当者は、市内の現状について、次のように認識している。
「さいたま市では、人口の増加と医療ひっ迫は直結しないと考えており、また市内で医療ひっ迫が起きているという認識は持っていない。小児科は、インフルエンザなどの感染症の流行期には一気に受診者が増えるため、季節によって受診する患者数にばらつきがあると考えている」
一方で、救急医療の最前線にたつ田口医師は、まちづくりの観点に医療の視点が必要だと考えている。
例えば、病院においても、周辺に大規模なマンションが建設される際には、事前に情報を把握できれば、医療スタッフの増員を検討したり、場合によっては病床数を増やす必要があるか検討したりするなど、準備できることがあるのではないかと感じている。実際に、大規模なタワーマンションが建設されれば、1000人単位の住人が新たに移り住んでくることになり、医療を必要とする場面もそれだけ増える。
ただ現在は、マンションの建設や再開発などを行う民間事業者などから病院への情報提供の仕組みは整っていない。空き地があったとしてもマンションが建つのか、どれくらいの規模のマンションなのか、ファミリー向けのマンションなのか、それとも単身者向けなのかといった情報を共有するシステムは全国的にも整備されていないのだという。
「人が増えるとどうなるか」を具体的に想像すべき
田口医師の言葉だ。
「さらに開発は進むのだと思うし、人口が増加していく見通しもあるので、学校、道路、公園など、そうしたインフラと同じような形で、医療の計画も併せて考えれば、もっと住みやすい街になっていくと思う」
街の再開発やまちづくりは、地域の価値を高めたり、人を呼び込み活性化させたりするための起爆剤になりうる。その一方で、こうした再開発はデベロッパーや再開発組合が主体となって進められる場合が多く、行政などとの情報共有が必ずしも十分とは言いがたいのが現状だ。
大規模なタワーマンションが建設されることによる周辺への影響――例えば多くの人が移り住むことによる交通渋滞や、保育園や放課後児童クラブの不足、医療資源の不足などについて想像力を働かせることが大切だと感じる。
後追いではなく、事前に協議することで対策を講じることができれば、もともと住んでいる地域住民も、そして新たにタワーマンションに移住してきた人々もそれぞれの暮らしの満足度を高めることにつながるだろう。
街は開発をして終わりではなく、人々の生活はそこから紡いでいかれる。学校も医療も生活に欠かせないインフラだ。だからこそ、まちづくりにおいては人が移り住んだ後についての想像力を十分に働かせること、まちづくりの情報共有や連携の仕組みづくりが必要だと言えるだろう。