救急搬送で13件の医療機関を断られた男性も

また、命に直結する救急医療の現場でも人口の増加が医療体制のさらなるひっ迫を招いているという指摘がある。救急医療の最前線を担っているさいたま赤十字病院は、県内初の三次救急の医療機関として、地域の医療の核を担う存在だ。

しかし、その病院の最前線では今、綱渡りの対応を余儀なくされている。

市内を走る緊急車両
写真=iStock.com/pdiamondp
※写真はイメージです

取材したある日、救急の現場では、救急隊員による搬送依頼の電話が何度もかかっていた。

「(受け入れを)10件断られて、うちに要請がきているのですが、今、救急病棟が残り1床で満床になります。ベッド状況的にはかなり厳しい」
「かかりつけとかない感じ? クリニック?」
「クリニックレベルです」
「○○病院はまだ当たってないってことです」
「そこだけ当たってもらって、どうしようもなかったらもう1回電話してと言って。その場合、受け入れるしかないのかもしれないね」
十数分後……。
「13件目……」
「じゃあ対応しましょう」

さいたま市在住の高齢男性だというこの患者は、13の医療機関に搬送を断られてしまい、受け入れ先がないとして、さいたま赤十字病院に無理を言って再度搬送を依頼した。

医師たちは、この患者を受け入れ対応することにした。

このように、新型コロナの感染拡大が落ち着いた今でも、夜間の救急搬送で受け入れた患者でベッドが埋まり、日中に病棟を移ってもらったり、転院の調整をしたりして、なんとか空きを確保しており、連日満床の状態が続いているのが現状だ。

災害は起きていないのに、救急医療はギリギリ

この地域で20年にわたって救急医療に携わる、田口茂正医師は危機感を募らせている。

「救急の患者さんが入るべきメインベッドが基本的に全部埋まってしまっている。災害だったら限界があるため、トリアージが行われる。そうした災害は起きていないのに、普段からギリギリです。本来は一人ひとりに最善の医療を提供してあげたい。それがこの地域に住んでいる人たち、市民の皆さんとか県民の皆さんが安心して暮らせるということだと思う」

さいたま市の人口10万人あたりの医師数は199.4人で、埼玉県内のほかの二次医療圏と比べると多いのだが、政令指定都市の中では最下位となる。また、さいたま市消防局によると、2022年の救急車の救急出動件数は8万365件と、前年より1万3925件、およそ21%も増加している。これに伴って、救急搬送が困難とされたケースも7400件を超えていて、これまでで最も多くなった。

この病院では、救急医療の処置をしたあと、リハビリや療養を行うための転院先となる病院も慢性的にひっ迫していて、ベッドが空けられない事態に陥っているのだという。

「(患者の)行き先がいつも満員になっている。そうするとこういった救急病院も常に満員になって、八方ふさがりというのですかね……」