無党派層に相手にされず

無党派層の離反は立民に深刻な衝撃を与えた。少し前までは、どんな選挙でも無党派層を多く獲得して勝ってきた立民から無党派層が離れ始めているのではないか。既成政党への不信感がそれだけ強く、自民党と同じように、いや、おそらくそれ以上に立民が嫌われているのではないか。そうした敗北感と危機感が立民全体を覆った。

同時に、共産党が前面に出る一方で、連合東京は小池支持を明確にし、国民民主も維新も、蓮舫に乗ることを拒否した。手塚が主導して共産党との連携を重視しすぎ、特に連合との関係が悪化したという批判も出たが、この結果も維新や国民民主も含めた選挙協力ができないと、立民だけの自力では無党派層を引き付ける力さえおぼつかないことを改めて印象付けるものだった。

この都知事選での手痛い敗北の後、立民内では、このまま漫然と代表選挙を迎えては、総裁選でメディアジャックをして、雰囲気を一新してくる自民に到底勝てないのではないか。そんな危機感が党全体に広がっていた。

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犬猿の仲となった小沢・野田の接近

都知事選に限らず、最近の立民の不振は無党派層のなかでも比較的保守的な層を取れていないからではないか。保守系の立民議員を中心にそんな危機感が広がっていた。

そのためには国民民主党や日本維新の会といった、中道から右の層、さらには自民党支持からこぼれ始めている保守層にまでウイングを伸ばす必要がある。野田と共に党重鎮の小沢一郎もそう考え始めていた。

野田佳彦氏(写真=總統府/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

都知事選で敗北した2日後、小沢は自らのグループ「一清会」で「野党共闘を進められない泉代表ではこの党は沈没だ」と泉おろしを宣言した。これが党内の不安感に火をつけた。泉代表のままでは、次の衆院選は厳しいのではないか。自民党内で岸田への不満が不安感に代わっていったように、このままでは選挙に勝てないという不安感が一気に増していった。

そうした党内の空気を感じて立候補の環境が整ったと見たのか、直後に枝野が出馬の可能性を表明し動き出した。枝野は、政権交代を目指す点では一致しているが、保守的な立場の野田や小沢が主導権を持つことを避けたかったのだろう。

もちろん立民の創業者でありリベラルな立場に立つ自らが政権交代の先頭に立つべきだという思いのはずだ。それは多くのリベラル系の議員たちの思いでもある。

あんなに嫌っていたのに…

一方、小沢は7月19日夜、かつて消費税引き上げをめぐって激しく対立した野田と8年ぶりに赤坂の料理店で会談し、政権交代を実現するため協力することで一致した。

そのためにも泉、枝野にもう一人、野党陣営に加えて保守層にもウイングを広げられるような第三の候補が必要だという認識も同じくした。この時点では、野田は自らの出馬に否定的だった。2012年、党分裂の危機の中で解散に踏み切って惨敗し、多くの仲間を失った責めを今も受けている。自分は嫌われているというのだ。