逆風なのに盛り上がる自民党総裁選

その後任を決める総裁選も厳しい逆風のなかのはずなのに、次々に候補者が名乗りを上げて、なぜか盛り上がっている。

世論調査で人気が高い石破茂や小泉進次郎、河野太郎、そして保守層に人気の高市早苗。閣僚経験が豊富な加藤勝信元官房長官、知名度は低いが当選4回で閣僚経験もある小林鷹之、茂木敏充幹事長や林芳正官房長官、さらには、上川陽子外相と、岸田政権を中枢で支えてきた実力者たちもポスト岸田を目指して走り出した。

多種、多様な人材が次々に名乗りを上げ、百家争鳴の感もあるが、史上稀に見る大混戦になっている。嫌な事を忘れたいからだろうか、自民党議員たちもことさら明るく元気にふるまっているようにすら見える。

自民党本部に掲げられた歴代首相をあしらった巨大なポスター。まるで映画のCMのような凝った演出の動画。そして連日各地で繰り広げられる街頭演説などの活動をメディアが追いかけ、告示前から盛大な選挙運動が繰り広げられている。

もちろん、公選法が適用されるわけではないので、何をしようが自由なのだが、マスメディアも公平さより「面白さ」を自由に追えるので、小泉の街頭演説に5000人も集まっただの小林が安倍晋三元首相の墓前で何事かを誓っただのというどうでもいいニュースがあふれかえることになる。

立民の岡田克也幹事長が、「完全なメディアジャックだ。マスコミの反省を求める」といつものように堅苦しい批判をしているが、それが自民党のメディア戦略であり、事実上の首相を決める総裁選は、嫌でも世間の関心を惹き付ける。自民党支持率も上向き、崖っぷちに立たされたはずの自民党は、息を吹き返したようにも見える。

都知事選の「3位敗北」の余波

もちろん、立民の幹部たちも漫然と見ていたわけではない。東京都知事選で立民の「切り札」として擁立した蓮舫が、広島県安芸高田市長から突如現れた石丸伸二に後れをとって3位に沈むという「想定外」の敗北が党内の危機感を強めた。

ともに復権のチャンスをうかがっていた野田と枝野は、実は、この選挙戦を浮上の足掛かりにしようとしていた。蓮舫は野田の議員グループ「花斉会」の有力メンバーであり、野田側近の手塚仁雄・都連幹事長とは盟友関係でもある。

売れっ子のキャスターだった蓮舫を政界に誘ったのが手塚だった。今回の都知事選への出馬も、静岡県知事選で鈴木康友が自民党候補を破ったその夜、蓮舫と手塚が赤ワインを一本空けた勢いで決めたと党内ではささやかれている。

都知事選での勝利か、勝てなくても善戦すれば、首都東京でも自民党への逆風が明白になり、政権交代に弾みがつく、そう立民議員の多くが考えていたし、枝野も蓮舫に近い辻元清美とともに毎日のように街頭演説のマイクを握った。

野田も負けじと応援にかけつけ、終盤の有楽町の街頭演説では、共産党の志位和夫議長と並んで演台に立つほどの力の入れようだった。それがまさかの3位、しかもSNSなどで話題になったとはいえ、さしたる実績や見識を持つようにも見えない石丸に無党派層の票をごっそり持っていかれたのである。