でも、よく考えてみていただきたい。1万円の交際費のムダ遣いに目くじらを立てていた経営者本人が、商談では5万円の値引きに応じた。これは会計的な観点から見ると、果たして正しい対応なのだろうか?
さらに、この経営者はこうも考えた。
「100万円のうちの5万円なんて、たったの5%だろ。このくらいのロスは現場のコストカットで簡単に取り戻せる」
そして、彼は従業員がコピーを取る際に、裏紙を使ったり、両面コピーをしたりすることで、コピー用紙をせっせと節約させることにした。しかし、A4サイズのコピー用紙は1枚0.8円程度。つまり、6万枚以上のコピー用紙を節約したとしても、「お取引いただけるなら5万円の値引きをしましょう」という、サービス精神溢れた経営者の一言による損失には届かないのだ。
コスト削減という意味で考えれば、純粋に損失金額が多いほうが損なのである。比較する数字があり、そのゼロの数が増えるほど惑わされがちだが、5万円のロスは1万円のロスに対して単純に5倍損をしているのだ。
このように、金額ベースで状況を把握していくことを、「金額重視主義」という。むろん経営者としては少しでも利益を上げられるように、わずかなコストにも目を光らせる必要はあるだろう。しかし、従業員のムダ遣いを指摘している経営者本人が、実は思いもかけないところで、それを上回る損失を会社に与えてしまっていることもあるのだ。
もちろん実際の経営では、さまざまな要因が絡むため、これらの事実だけを見て最終的な損得を判断するのは難しい。ここで強調したいのは、あくまで「数字をありのままに見る」という会計的センスである。
別の例を挙げよう。「1000円のものを500円で買えた」というのと、「100万円のものを99万円で買えた」というのとではどちらが得だろうか。
前者の値引き率は50%、後者は1%なので、値引き率としては前者のほうが大きい。
しかし、金額重視主義に基づき、コストをいくら削減できるのかということを考える場合は、値引き額がたったの500円にしかならない前者に比べ、1万円も少なく購入できる後者がお得、ということになる。
答え(B)
1976年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、一般企業を経て、公認会計士2次試験に合格。現在、公認会計士山田真哉事務所所長。『食い逃げされてもバイトは雇うな』などベストセラー著書多数。