行動経済学の普及で進化する販促理論

ヤマダ電機に代表される家電量販店の多くにはポイント割引制度がある。現金やカードでの支払額に応じて、次の買い物での割引に使えるポイントが付与される。多くの量販店で同様の手法が取り入れられていることから、こうしたポイント制度が消費者の強い支持を受けていることがわかる。

さて、ポイント制度で20%の還元を受けるのと、現金で15%引きとなるのでは、どちらがより得だろうか。

ポイント分の精算にはポイントがつかないというのが要点だ。別表に1万円の商品を3回購入したときの試算を示した。最初の購入で2000円分のポイント還元が受けられるため、「500円得した」と思うかもしれないが、3回購入時でも現金割引のほうが総計の支払額は900円少ない。ポイント還元のほうが支払額が少なくなるのは9回購入時以降となる。

なぜ見かけ上の還元率に騙されてしまうのか。行動経済学の知見によれば、そこには2つの心理的特性が関わっている。

第1は「参照点依存性」。人は損得について、頭の中に定めた一定の基準からの変化で判断してしまうという性質をもつ。

会社員のボーナスは本来、臨時収入である。しかし、もしボーナスがもらえない、もしくは前期より減額されていれば、大きく失望するだろう。それは前期の額が参照点となり、それとの比較で判断するからだ。「ポイント加算20%」の参照点は「20」で、頭の中ではそれを「現金割引15%」の「15」と比較する。その結果、「5%ダウン。現金割引のほうが損だ」と判断してしまうのだ。

第2の理由は「フレーミング効果」。人は提示の仕方(フレーミング)によって、同じ現象にも正反対の印象をもつ恐れがある。たとえばコップに半分の水が入っている場合、「まだ半分残っている」と捉えるか、「もう半分に減ってしまった」と捉えるかで、印象はまったく異なる。こうした「フレーミング効果」は、人間の判断に大きな影響を及ぼすことが知られている。