入院中、自分の人生をビデオテープのようにFF(早送り)して振り返った。そうしたら、忠臣蔵で言えば「おお、何段も残っていない」とわかった。例えば、読書にしても、よく退職してからは晴耕雨読で、無限に本が読めるように言うけれども、あれは嘘で、読める本の数は決まっている。とすれば、きちんと選ばなくてはいけない、と。いろいろ考えて、自分の父が亡くなった78歳までを自分の残りの人生のバジェット(予算)と決め、仕事をもう1回しようと思い直した。
さらに、死にかけたおかげであまり怖いものがなくなったような気がする。欲しいものがなくなって、すーっと欲が抜けたような感じがした。
その後52歳で執行役員になるのだが、そのときは「もし役員でなくなったら、オレに何ができるか」と考えて、不安だった。「オレにしかできないという仕事の選択肢が2つ、3つは欲しい」。そう考えて、環境問題、品質問題ならだれにも負けないということを見つけたときには、憑き物が落ちたような開放感があった。
とにかく40代というのは、人生でも大変なときで、仕事でもプライベートでも、いろいろな問題が並行して一遍に押し寄せてくるのだ。
まとめると、40代というのは、それまで自分が手がけてきたフィールドではベテランだが、マネジメントという分野では「超新人」。それは新しい体験だから、面白おかしくて、のめり込む。その一方で、一段、一段責任が重くなっていき、一種の倦怠感みたいなものも生まれる。その倦怠感とチャレンジ精神のバランスをうまくとることが肝要だ。
中鉢良治
1947年、宮城県生まれ。東北大学工学部博士。77年、ソニー入社。99年、執行役員。2005年、社長。09年より現職。