ゴマをする東大法学部卒
日本の労働市場は非常にあいまいだ。医師と弁護士と公認会計士という業務独占資格以外に、明確な指針となる能力が、実はまったくない。多くの勤め人は、いったん組織を離れると何をやっていいかわからなくなる。
組織の内外を問わず、生き残りに最も有効な能力とはいったい何だろうか。
定量的な能力よりは定性的、数字や型では測れない能力のほうが大切だということは、誰もが薄々感じている。一言でいえばコミュニケーション能力だ。ただ、コミュニケーション能力とは何ぞや、と問われても、結局のところわからない。どこでも円滑な人間関係を保って生きていくために必要なのは、コミュニケーション能力の中でも「ゴマすり」の力だと私は考えている。
ゴマすりにはネガティブなイメージがあるが、実はポジティブな技術なのだ。厚生労働省に在籍していた頃、周囲では東大法学部卒でも何でも、自分に自信のある人、心に余裕のある人はみんな平気でゴマをすっていたし、そういう人はゴマすりではなく「したたかだ」と評された。逆に、自分の市場価値に自信がない人ほど心に余裕がなく、ゴマすりを卑屈だと見なすようだ。
そもそも、これだけうつ病が蔓延し、自殺者の多い世の中では、生き残りこそすべてであり、そのためにゴマをするのは恥でも何でもない。仕事さえ進めばいい、と割り切れば、その環境整備のためにほんの少し自分のプライドを折り曲げても、さほど苦痛はないだろう。ゴマすりのおかげで思った通りに物事が動けば、意識も変わる。
ゴマすりの技術を磨くことで身につく能力は数多い。まず、効果的なゴマすりには洞察力が必須だ。同じ言い方をしても、気分をよくする人もいれば怒る人もいる。本気でゴマをすろうとすれば、自然と相手がどういうタイプかを見極め、対処する力がつく。