ソニーは1989年に48億ドル(当時6700億円)でアメリカのコロンビア映画を買収した。「ソニーの歴史で最大のミステリー」という買収は、なぜ実施されたのか。当時、ソニーの経営戦略本部長として買収劇の事務方を務めた郡山史郎さんは「買収の本当の目的は、アメリカの政財界との交流を深めるためだった」という――。

※本稿は、郡山史郎『井深大と盛田昭夫 仕事と人生を切り拓く力』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。

2020年2月8日:米国カリフォルニア州サンマテオにあるソニー・インタラクティブ・エンタテインメント本社キャンパスのオフィスビル
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「アメリカの魂を買いあさっている」と非難された

ソニーがコロンビア映画を買収したのは1989年9月のことだ。日本のバブル景気が真っ盛りの頃で、あとを追うように日本企業はアメリカの映画会社を買収するようになる。松下電器、日本ビクター、パイオニア、東芝、商社などがハリウッドに大金を投じた。

三菱地所がマンハッタンのロックフェラー・センターを所有したのと並んで、「日本企業がアメリカの魂を買いあさっている」と非難され、ジャパン・バッシングにつながった。「ソニーのコロンビア買収は暴挙だ」と非難したのはアメリカ社会やマスコミだけではない。社内でも反対の声は大きかった。

48億ドル(当時6700億円)も出して買収する値打ちはない、素人のソニーが映画ビジネスで儲けられるはずがない、アメリカ国民を敵に回してほかの製品が売れなくなったらどうする……とあちこちから批判された。同じコンテンツビジネスでも、1968年に米CBS社との合弁でCBS・ソニーレコードを設立したのとは意義も金額もまるで違う。音楽のように利益につなげられる保証はまるでなかった。

なぜ、ソニーはコロンビア映画を買収したのか?

当時から疑問視する声は多く、いまだに「ソニーの歴史で最大のミステリー」と紹介されることもある。のちに出版されたソニー本を読んでも、的を射た解説はほとんどない。「ハードとソフトがビジネスの両輪になる」といった説明は建前に過ぎない。実は、あの買収劇の事務方を担当したのは私だ。経営戦略本部の本部長として実務にあたった。