司法担当として原爆裁判は真正面から描いてほしいと希望

「虎に翼」の企画が動き出した際、私は、原爆裁判はぜひ真正面から描いてほしいという強い希望を出していました。短く少しだけ触れるというやり方は、深刻で重大なテーマにそぐわないと考えたからです。脚本の吉田恵里香さんや演出の梛川善郎ディレクターの理解も得て、こうした希望をかなえてもらえました。

第1回の準備手続のシーンは、反核法律家協会が保管している資料の中に調書があり、それをもとに描かれています。まず「原告代理人の訴状陳述」から始まり、「被告指定代理人はいかがですか」「私どもとしては、請求棄却を求める方針です。答弁を準備したく、準備手続きの続行をお願いしたい」「では、答弁書は遅くとも3カ月後……」といったシーンも、実は保管されている記録をもとにセリフにしています。

続いて第2回準備手続きでは、弁護士の岩居(趙珉和)が国側の指定代理人に対し「広島の原子爆弾の投下は、国際法に違反すると言っているじゃないですか」と少し語気を強めている場面があります。おそらくテレビを見ていた人は、これだけでは何のことかわからなかったでしょう。実はこれ、保管されている記録の中に、第2回で提出された国への「求釈明申立書」があります。そこに「昭和二十年八月十日帝国政府は(中略)米国政府に対し、広島に対する原子爆弾の投下が国際法に違反する」とスイス政府を通じてアメリカに抗議していたことを明らかにしています。つまり、さきほどのシーンは岩居が「あなた方(帝国政府)自身が当時、国際法違反と言っていたじゃないか」と追及しているわけです。ちょっと怒っていることもわかるでしょう。

記録の保存がいかに大事かということがこれでわかると思います。一方で、例えばこういう小さな部屋で行われる手続きだからといって、ドラマ的に映えるよう面白おかしくはしない。厳格にそのまま、特に広島と長崎の方々に対して誠実に伝えようということを制作スタッフ全員一致で考えています。

写真提供=NHK
NHK解説委員の清永聡さん

平埜生成演じる裁判長が史実の判決文を読み上げた

第23週の9月6日では、最後に判決の瞬間が描かれました。これはほぼ4分間、裁判長が判決文をただ読んでいるだけという異例のシーンなのですが、読み上げているのは昭和38年12月に言い渡された「原爆裁判」の判決文の一部です。特に後半部分は、放送で聞いている人が理解できるように表現を少しわかりやすく修正したほかは、できるだけ当時の判決のままにしています。

この収録には私も立ち会いましたが、汐見裁判長役の平埜生成さんはとても気合が入っていて、4~5回撮影をする間、1回も言い淀まず、しかも冷静に感情をグッと抑えて読み上げる熱演でした。収録スタジオの中にも感動が広がりました。よく考えたら、判決文を読んでいるだけなんですよね。それは、熱演と梛川ディレクターの演出の巧みさに加えて、原爆裁判の「判決が持つ力」もあったのだと思いました。

写真提供=NHK
汐見裁判長役の平埜生成(中央)

あの段階で例えば架空の判決文を作ることはできない。あくまで史実通り本物の判決をできるだけそのまま読んで、ドラマを観ている皆さん、特に広島と長崎の人に三淵さんたち3人の裁判官が練り上げた判決を伝えたい、知ってもらいたいという思いで作りました。