「安倍一強」は自民党の脆さでもあった

2005年の郵政選挙で、郵政改革関連法案に反対した議員の選挙区に刺客を立てた小泉純一郎総理の手法はやや安倍総理に近かったかもしれませんが、福田康夫総理、麻生太郎総理は対話による妥協を地道に重ねておられたと記憶しています。

2013年、私が幹事長を仰せつかっていた時の参院選では、安倍総理が「広島と静岡で自民党として2人候補者を出したい」と強くおっしゃいました。しかし私は、「どちらも成功する確率が低すぎます。自民党が2議席独占しようとすれば、きちんと票割りをする必要がありますが、地元の体制としてそれは無理です」と反対しました。安倍総理もかなりこだわりを持っておられましたが、最終的には私の幹事長としての判断を尊重してくださいました。

石破茂『保守政治家 わが政策、わが天命』(講談社、倉重篤郎編)

そこまでこだわっておられた理由は当時はわかりませんでしたが、その6年後、19年の参院選では、広島選挙区にまさに自民党から2人候補者を出し、2人のうちお一人が落選されました。それが、第一次内閣で安倍総理を批判したとされる溝手顕正さんで、当選された河井案里さんが、夫の元法相・河井克行さん共々、その後公選法違反で逮捕され、河井陣営に自民党本部から巨額の資金支援が行われていたことが明らかになったのはご承知の通りです。

安倍総理は、郵政民営化に反対して離党した造反組を復党させたり、情にもろい部分もあったと思いますが、一方で、たてつく者に対しては冷厳な一面も持ち合わせておられました。それは本来保守がもつべき寛容とは違った、非常にユニークな強さだったと思います。敵か味方かを識別し、敵を一斉に攻撃するのは、たしかに地道に議論を重ねて妥協点を見出すよりも早くてドラスティックかもしれません。しかしその強さは脆さでもある。

意見が出ない組織、単一的でモノトーンな組織はものすごく危ないのです。それはビッグモーターやジャニーズ事務所の例でわかる通り、自浄作用が働かない。うまくいっている時は勢いよくのぼっていけますが、何らかの問題を内包した途端、その問題に毒されていく速度も非常に速い。

そして、それに呼応する勢力が一定程度ある。世論の大勢も、ある意味で性急なトップダウン手法を歓迎していく。

保守は「態度」であり、イデオロギーではない

これに待ったをかけるような発言をすれば、ネット上で「死ね」とか「左翼」とか「売国奴」とか、ののしられる日々が続きます。いくら叩かれ慣れている私でも、あまり楽しい話ではありません。それで、やっぱり苦言を呈するのはやめておこう、あるいは3回言おうと思ったけど1回だけにしておこう、ということになってしまったら、民主主義の前提である健全な言論空間が失われてしまうのです。

保守というのは、本来、性急な変化を希求する「革新」に対してブレーキをかけつつ、今までの社会の良さを残しながら漸進しようというスタンスです。保守は、ですからあくまで「ありよう」や「態度」であって、そのものがイデオロギーではありえないし、一定のイデオロギーを前面に出して性急な変化を求めるのであれば、それはおそらく「右翼」というのでしょう。

だから私に対して人格攻撃的な批判を展開するような人々は、どんなに「保守」を自称しようとも、決して「保守」ではありえないのです。

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