自民党の石破茂衆院議員は、「次の首相にふさわしい人」として名前が挙がる。しかし総裁選は4戦全敗。2014年9月に幹事長を退いて以降、党内では「冷や飯」を食う立場が定着していった。なぜ石破氏は自民党内で支持を得られないのか。石破氏の著書『保守政治家 わが政策、わが天命』(講談社、倉重篤郎編)から、安倍政権時代のエピソードを紹介する――。
安倍晋三氏が自民党総裁に再選、2018年9月20日東京
写真=DPA/共同通信イメージズ
安倍晋三氏が自民党総裁に再選、2018年9月20日東京

「後ろから鉄砲を撃つ奴」と言われ続けてきた

政治はなぜ国民の信頼を失ったか。やはり、この10年余り続いた安倍晋三総理の時代を振り返る必要があります。

私が安倍政治について語ると、あいつはいつも後ろから鉄砲を撃ってけしからん、という批判が起こります。後ろから鉄砲を撃って、という言い方は、同じ政党の幹部だったではないか、野党みたいなことを言うな、という趣旨だと思われますが、同じ政党にいるからこそ忌憚なく意見を言い、改めるべきは改めるのが、政権を守る、ということであり、それはむしろ同じ党の同志としての義務なのではないでしょうか。

それは、与党として政権を預かる、ということの重みを自覚する、ということでもあると思います。国民の生命、財産、人権を守るために、日々数えきれないほどの重要な政策決定、政治決定をしている政権与党であるがゆえに、決定に至るまでのプロセスにおいては、あらゆる角度から入念な議論を積み重ね、納得感を得なければなりません。それがまた民主主義的手続きの最も優れたところだと思います。

当然のことながら中には耳の痛い議論が出てきますが、それこそが政党の健全性を示すもので、そういったシビアな議論を経るからこそより良い選択肢が得られ、与党として国民の負託に応えられるのだと私は思っています。

表立った対立を良しとしない空気が流れ始めた

自民党は立党以来、党内で様々な立場から侃々諤々かんかんがくがくの議論を続けてきました。個別政策について取り扱う政務調査会の各部会でもそうですし、党議決定の最終関門である総務会では、さらに激しい議論が重ねられてきました。それが自民党の伝統の一つであり、私もその気風に鍛えられてきた者の1人です。

その甲論乙駁こうろんおつばくを良しとする文化がこの10年で随分と変わってきた、というのが私の実感です。論戦を嫌がるというか、党内で対立していると見られたくないという思惑が先行し、意見に違いがあるがあえて表での論戦は控える、というような傾向が顕著になっている感があります。あれだけ議論が沸騰していた総務会も最近はおとなしい。一言居士として有名な村上誠一郎さんの不在もあり、淋しい限りです。

ですから私は後ろから鉄砲を撃っているつもりは毛頭ありません。自民党の長年続いた良き伝統の継承者でありたい、という気持ちから、正対して意見を申し上げてきたつもりです。