ドイツで生産しても、必ず供給されるとは限らない

しかも、インテルはイノヴェーションに乗り遅れており、他の半導体メーカーが取り組んでいる次世代型の半導体を作る技術がない。だから、本来なら、ドイツ政府の提供する補助金を新技術の開発に投資すれば良いのだが、インテルにはドイツに研究施設を持ってくる計画はない。

さらにいえば、誘致の目標は半導体の供給安定と言いつつ、ドイツ政府は、何らかの有事で半導体の供給が逼迫した時、マクデブルクで作られた製品がドイツに供給されるという保証を取り付けることが、ついにできなかったという。つまり、このままではいざという時、ドイツで作られた半導体が、国際市場で一番高い値を付けた買い手に流れるという可能性もある。

なお、アイルランドにあるインテルの半導体工場では、毎月60万m3の水を使用しており、これを年間に換算すると、マクデブルク市の水の年間使用量の3分の2に達するという。ドイツ政府はエネルギーの効率化や自然保護をうたい、多くの投資を制限しており、さらにいえば、ドイツは現在、電気も水も足りないというのに、よりによって、半導体工場というエネルギー集約型の企業を誘致するわけだ。

「ドイツは見切り品ショップになってしまった」

それどころか、政府はインテルに、1kW時あたり10セントの電気を20年間保証するという。政府は近隣の風力電気をフルに使うつもりだろうが、風はいつも吹いているわけではない。ドイツの通常の産業用電気は20.3セントだから、政府はここでも、かなりの補助を余儀なくされるだろう。インテル誘致計画は、一から十までかなり無謀である。

写真=iStock.com/WillSelarep
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なお、ここまで聞いて日本人が思い出すのは、熊本のTSMC社の誘致だ。インテルとTSMCが手にする補助の金額はほぼ同じ。最先端の半導体を作る予定がないところも同じだし、生産のための原料や半加工品の大半が依然として中国や台湾から来ることも、環境問題で綱渡りになりそうなことも同じ。そして、本当にドイツや日本に最終的な利益が落ちるのかという懸念も同じだ。

今年の4月、フランクフルト証券取引所のCEOは、「ドイツは見切り品ショップになってしまった」と語った。つまり投資家は、よほど良い条件が提示されなければドイツには投資しない。それがインテルへの巨額な補助金につながった。ひょっとして、日本もそれと同じなのか。

巷では、「半導体覇権」などという言葉が飛び交い始めている。かつてハイテク産業国として栄えたドイツと日本なのに、その栄光はすでに手からこぼれ落ちかけている。もう一度、テクノロジーを取り戻すには、まずは学校教育を立て直すべきではないか。遠回りであるようでいて、それが一番の近道だと、私は確信している。

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