“インテル誘致”のために1.5兆円の補助金を約束

それどころか、同社はやはりマレーシアに第2工場の建設も計画しており、追加投資額は50億ユーロ、雇用人員は4000人になる予定だという。つまり、どう見ても、経営状態が悪いわけではなさそうだ。

半導体は、将来、あらゆるものに使われるはずなので、現在、たとえEV車の売り上げが芳しくなくても、インフィニオン社は強気だ。しかも、同社がマレーシアで生産するのは、次世代の半導体と言われるSiC(炭化ケイ素)パワー半導体で、マレーシアは将来、同社の戦略において重要な拠点となると見られる。ドイツでの生産を縮小するのは、要するに、ドイツで作ってもコストが高すぎて儲からないからだろう。

似たような話は他にもある。実はドイツ政府は昨年、米インテル社の半導体工場を誘致するため、100億ユーロ(1兆5500億円)の補助金提供を決めた。1年近くも金額で揉めていたというが、結局、インテルが押し切った形で100億になり、昨年6月、ようやく調印にこぎつけた。これによりインテル社は、旧東独のザクセン=アンハルト州の州都マクデブルク市に、合計300億ユーロで2つの半導体工場を建設することになる。

負け馬に大金を賭けるようなものではないか

EUは現在、半導体の供給リスクを減らすため、EU製の半導体の世界シェアを10%から20%に伸ばそうとしている。ドイツは、エネルギー政策と難民政策の失敗ですでに破産状態に近いが、ショルツ首相は何が何でもインテルをドイツに誘致し、EUを半導体戦略でリードしたい。

つまり、100億ユーロはそのための大盤振る舞いで、調印の後、氏はいつものポーカーフェイスで、「ハイテク産業立地ドイツへの第一歩」などと大いに自画自賛していた。

ただ、現在、インテルの経営は思わしくない。今月2日、同社は外国の各地の工場での1万5000人のリストラ、そして生産計画の縮小を発表した。「ドイツでの投資計画には影響がない」と、ドイツの公共メディアが火消しに回っているが、実際問題として、ドイツ政府は大量のリストラを行わなければならない企業に、これから大量の補助金を注ぎ込むわけだ。負け馬に大金を賭けるようなものではないかと、皆が懸念するのは、当然のことだ。しかも、その賭け金は国民の血税。

そもそも多くの経済専門家は、当初よりこの誘致には懐疑的だった。半導体の需要は景気に大きく左右されるため、投資計画が安定せず、大枚をはたいて誘致しても、大量のリストラという答えが返ってくる可能性は否めない。