ミスを反省できなければダメ監督。選手たちも「あれは監督の判断ミスだ」と見抜いています。だから、みんなの前で自分の非を認め、「ごめん」と謝る。そうしないとチームにわだかまりが残り、信頼関係は崩れていきます。わだかまりが増えれば、分裂が起きたり派閥ができたり、おかしな方向へ進みだすのです。
ミスをしたときに謝れるか、謝れないか。これは信頼関係の蓄積で決まります。
僕は選手にできるだけ多く接して、コミュニケーションを密にしようと努めています。月曜を除く毎日、朝練は6時にはじまりますが、いつもグラウンドに一番乗りします。練習前はチーム全体に語りかけ、練習後は挨拶にくる1人ひとりと話します。選手とジョギングしながら会話することもあります。そして週2日は、競走部の合宿所に泊まり、彼らと食事や風呂をともにしています。
長く接すれば、お互いにいろいろな面が見えてきます。部下が上司を見るポイントも、仕事の能力だけではないはずです。人間的な面まで理解できて結びつきは強まるのだと思います。
コミュニケーションがなければ、伸び悩む選手や故障で焦る選手の状況を理解できません。特にスーパースターと呼ばれた人が上に立った場合、注意しなければなりません。「名選手、必ずしも名監督にあらず」。優秀なプレーヤーであった上司ほど部下を見下し、部下のほうも近寄りがたく感じてしまいがちです。心のどこかで部下をバカにしているから、ミスをしてもなすりつけてしまうのです。
誰とでも分け隔てなく接すれば、相手の長所や強みが見えてきます。僕が指導者になって気づいたのは、どんな選手にも優れた点があるということです。
部員は毎年40人ほどいるので、自分と真逆のタイプに接する機会もあります。そこで重要なことは、相手を尊敬できるかどうかです。実績はなくても、いいものを持っている選手はたくさんいて、彼らから学ぶことは少なくありません。監督と選手も、上司と部下も、信頼関係の基盤はお互いの尊敬だと思います。
尊敬があれば、素直に謝れます。謝ることで信頼関係はさらに強くなるのです。